話題のスマホゲームのクリエイターとスクウェア・エニックス安藤武博氏が対談する連載『召喚★アプリ神(ゴッド)』。週刊アスキー本誌で掲載しきれなかったインタビュー内容を3回に分けて掲載します。

 第4回目のゲストはこの人、DeNA『三国志ロワイヤル』のプロデューサー、山口恭平さんです。

 なお、第5回のゲストはアカツキ『サウザンドメモリーズ』の塩田元規さん。このインタビューを読んで気になっていただけた方は、9月30日発売の週刊アスキーをチェックしてみてくださいね。

三国志ロワイヤル:召喚★アプリ神 ↑DeNAプロデューサー山口恭平さん。

■ 新しい技術に挑んだ”サンロワ”が切り開いた境地

安藤:サンロワは技術的にも見どころがありますよね。大きな特徴として、ネイティブコードだけで書かれていない。ウェブブラウザーゲームとネイティブアプリの技術をどう融合させるかにチャレンジして、それがかなり高いレベルで決着している。双方を融合させてよかったことや、大変だったことがあればぜひ教えてください。

山口:運営がやりやすいですね。つくったものをアップすればネイティブで動きますし、まずければすぐに切り替えられます。審査もほとんど出さずにすみます。

安藤:そこがネイティブアプリのネックですよね。大きい変更のためにつくり直すと、アプリの公開審査に出さないといけないので時間がかかる。サンロワはウェブの技術も使っていますから、フレキシブルに対応できるわけですね。

山口:悪い部分は、電車の中などで遊びにくいことです。実は戦場のマップで戦っている間、一手一手全部通信しているんです。ネイティブなら最初にデータを出しておけば終わるまで通信不要ですが、現状だと遊ぶ時間や場所が制限されてしまう。そこはもうちょっとなんとかしたいですね。演出も問題があったんですが、新しい技術で解決しました。

安藤:実は久々に遊んで最初に目が止まったのが演出で、かなりパワーアップしたなと思いました。ウェブの技術にネイティブの技術をかぶせていると思うんですけど、なんとも言えない味わいがあるんですよ。ウェブだとどうしてもカキワリのような一枚絵を動かす演出が多くなる。でもその後ろで煙や炎がなまめかしく渦巻いていると、カキワリを動かすことすら演出のように感じてしまう。技術的な制限に立ち向かったらクリエイティビティが出てしまったというのも、サンロワの面白いところです。ゲームの神様にすごく愛されている感じがしますね。

三国志ロワイヤル:召喚★アプリ神 ↑アプリクリエイター界で流行中の名刺。山口さんは姜維(きょうい)、安藤さんは諸葛亮で作成した。

■ “サンロワ”は三国志の世界を広げていく急先鋒

安藤:デビュー作でこれだけ骨太で完成度の高いシステムを考案してしまうと、山口さんの今後の作品が気になります。たとえばコーエーテクモゲームスさんだと、第一作目に『シミュレーションウォーゲーム 川中島の合戦』があって、それが『信長の野望』になり全国版になり、さらに三国志やジンギスカン、水滸伝と、川中島の良さを受け継ぎながら発展していきました。サンロワのように優秀なシミュレーションゲームをつくったら、もっともっと発展させていろんなシミュレーションをつくりたいだろうなと思うんですけど、そのあたりはどうですか?

山口:はい、やはりシミューションゲームをつくりたいというのはありますね。機能は多くなくていいんですが、もっと細かいところにこだわってマニアックにつくることもできますし、それこそコーエーさんのように別の世界観を合わせても、絶対にゲームとして面白くなると思います。

安藤:ちなみに中国の古典の中では、やはり三国志がいちばんお好きなんですか?

山口:僕は三国志と水滸伝ですね。初めて触れた中国文学が三国志でしたので。

安藤:もしかして吉川英治さんの三国志ですか?

山口:そうです、それがきっかけで中国文学に興味をもったんですよ。

安藤:実は僕は水滸伝のほうが好きなんです。ちゃんとした水滸伝のゲームをぜひつくってほしい!

山口:水滸伝も考えたんですけど、中心となる登場人物が108人しかいないので難しいんですよ。

安藤:確かに、運営には不向きかもしれないですね(笑)。サンロワも「とにかく武将を増やせばいい」というやりかたではなく、レア度で差別化を図ったり、同じ武将でも有名な場面を切り取った別バージョンがあったり、武将のイメージを大切にしながら上手にやっているなという印象です。

山口:たとえば同じ関羽でも、三国志ファンの印象に強く残っているときの関羽を切り取って出していけたらなと思っています。

安藤:趙雲の長坂橋バージョンとかありましたよね。原作にはファンが燃えるポイントが結構ありますから、今後もいろいろなバージョンの武将が出てくるイベントや、そういういった方向のアプローチもしていくんですか?

山口:次は曹操のところにいたときの関羽を描いたイベントを予定していまして、関羽の魏バージョンが出ます(注)。マニアックですけどね。

安藤:でも三国志って、どんどんマニアックにしていっても大丈夫なくらい、今の若い方たちにも浸透していますよね。

山口:はい。ライトな方が入ってきてもちゃんと説明すれば、なんとなくでもわかってくれます。

安藤:時間に余裕があって、いくらでも工数をかけられるとしたら、サンロワに追加してみたい機能はありますか?

山口:ひとつあるのが、資源などをうまくコントロールしながら、3ヵ月くらいかけて全土を統一していくモードです。

安藤:今も戦場での戦いを繰り返して統一を目指す“軍事”モードがありますが、内政とか輸送とか、もっといろんな要素を入れる感じでしょうか。

山口:そうですね。「劉禅(りゅうぜん)は弱いから前線から下げよう」とか、武将の配置も自分でコントロールできるようにしたいです。もし実現できたら、『三国志ロワイヤル2』としてバージョンアップしてもいいと思います。ひとつのアカウントで、ナンバリングをずうっと遊べるようにしたいですね。

安藤:いいですね。続編のつくり方は今、各社が模索しているじゃないですか。正直難しいし、成功率も高くない。

山口:ユーザーに飽きられないで、次につなげるためには、続編をドンと出すしかないと思うので、ゲームの拡張という意味ももたせて出したいですね。
 もうひとつは世界観の拡張です。以前スクエニさんの『三国志乱舞』とコラボさせていただきましたが、ほかの世界が入ってくる面白さって絶対あると思うんですよ。三国志は結構マニアックなので、たとえば怪獣ものとのコラボは無理がありますが、少しずつでも世界を広げていきたいです。

安藤:世界観の話で言うと、たとえば戦国ものだと『戦国BASARA』のような武将の見せ方に長けたゲームもありますよね。武将の強さや性格がどんどん人間離れしていきますけど、それはそれでいいと思うし、三国志にも超人的な部分が多分にある。ひとりで敵の大軍を突破するとか、超人的な活躍をする武将がたくさん出てくるのも三国志のいいところだと思うんです。

山口:武将も含めて、妄想できる幅が広いですよね。たとえば孔明の南蛮遠征では不思議な毒の沼が出てきたり、めちゃくちゃファンタジックに描かれているじゃないですか。

安藤:象に乗った敵軍とか、籐で編んだ鎧を着て弓を跳ね返す兵士も出てきますよね。

山口:象に乗って虎を兵士として操るなんてありえないと思いますけど(笑)、自由にやっても許される部分は確かにあると思います。

安藤:今考えている中で、奇想天外だけどアリだなと思う世界観の組み合わせってなんでしょう?

山口:突拍子もないですけど、エジプトあたりに神様みたいな人がいて、諸葛亮が南蛮からそこまで行く、みたいな(笑)。

安藤:秘技を伝授されてツタンカーメンな感じになって帰ってくると。僕は好きです、そういう超絶展開(笑)。志茂田景樹さんの『孔明の艦隊』も読みましたし、北方謙三さんも三国志と水滸伝の世界設定を関連づけたりしていますから、様子を見てそのぐらいやってもいいかもしれないですね。
 三国志自体、仙人が出てきたり、無限回廊のような八陣図が出てきたりとファンタジックな部分がありますから、タイムスリップしたり、異世界とクロスするようなイベントがあってもいいんじゃないでしょうか。それがメインになってしまうと感情移入できなくなるユーザーも出てくると思うので、期間限定のお祭りみたいな感じでやると面白いかもしれませんよ。

山口:つなぎの部分さえうまくつくれば納得感が出せますよね。シナリオでもたぶんつくれますし、ゲームシステムとしてもデザインできそうな気がするので、両方のアプローチができるともっといいなと思います。

安藤:アップデートしてナンバリングをしてくという考え方や、いろんな世界観を入れていきたいという話で三国志の新しい可能性も見えてきました。定期的に触りたくなるようなイベントもぜひ入れて欲しいし、タケノコ荀彧のようなユルいイベントもとても楽しい。もっともっと何かできると思いますし、若獅子・山口さんの今後に期待しています!

注:この対談の収録は平成24年8月7日に行われました。文中の「関羽の魏バージョン」が登場する「関羽千里行」イベントは8月8~13日に行われ、現在は終了しています。

三国志ロワイヤル:召喚★アプリ神 ↑スクウェア・エニックスプロデューサー、安藤武博氏。

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