話題のスマホゲームのクリエイターとスクウェア・エニックス安藤武博氏が対談する連載『召喚★アプリ神(ゴッド)』。週刊アスキー本誌で掲載しきれなかったインタビュー内容を3回に分けて掲載します。

 第4回目のゲストはこの人、DeNA『三国志ロワイヤル』のプロデューサー、山口恭平さんです。

 なお、第5回のゲストはアカツキ『サウザンドメモリーズ』の塩田元規さん。このインタビューを読んで気になっていただけた方は、9月30日発売の週刊アスキーをチェックしてみてくださいね。

三国志ロワイヤル:召喚★アプリ神 ↑DeNAプロデューサー山口恭平さん。

■ ムダなものを省く才能、イメージが確立した世界をつくる難しさ

安藤:このゲームの魅力は先制攻撃が有利だったり、本拠地に戻ると兵士数が回復できたり、いろんな要素がムダなく入っていることです。それは最初から全部考えていたんですか、つくってから仕様を追加したんでしょうか?

山口:削っていったほうが多いですね。最初にあれもこれもといろんな要素を考えたんですが、多くなりすぎて面白い部分がわからなくなってしまったんです。

安藤:どこを削るかは、ご自分で判断されたんですか?

山口:そうですね、はい。

安藤:本当に?本当に?それってすごくないですか(笑)?

山口:アドバイスがなかったわけではないですけど、いろんなゲームのいいところを考えて判断していった感じです。

安藤:山口さんはポテンシャルが高い!ゲームをデザインするとき、最初に内容を盛りすぎるのはゲームプランナーの“初心者あるある”なんですよ。そこで先輩に「削りなさい」と言われるんですけど、必要最低限のものを残してどこまでシェイプアップできるかが腕の見せどころで、ご自分で見抜いたのはお世辞抜きですごい。その能力はどこで身につけたんですか?

山口:コンサル営業の経験が生きたんだと思います。余分なものを詰め込むといちばん伝えたいことが伝わらないじゃないですか。マトを絞ることを意識した……と、今思うとそうなのかなと。正直僕は頭がよくないので、自分でわからなくなっちゃうんですよ(笑)。

安藤:そんなことはないでしょう。いろいろな機会にお話させていただいていますが、中国は上海の大学を出たんですよね。

山口:はい、日本と中国の両方で大学を出ています。日本での専攻は中国文学でした。

安藤:そういう人が三国志のゲームをつくっているのがユニークですよね。たとえばガチャでいい武将が出る時に漢字がバンバンと表示される演出がありますが、あれはどういう意味ですか?

山口:”唯才是挙”ですね。曹操が才能のある人材を集めるときに掲げた言葉です。

安藤:そういうところにインテリジェンスを感じるんです。中国の古典や原典をきちんと読んでいる人が三国志を取り扱っているなと思いました。

山口:ありがとうございます。

安藤:そういったネタは、やはり三国志演義とか、陳寿の書いた正史三国志を参考にするんでしょうか。中国語で書かれているものも読んだりしますか?

山口:中国語ではさすがに読まないですね。今おっしゃられた三国志演義や正史三国志、あとは個々の武将を研究した本も出ているので、そういうものも参考にします。

安藤:日本と中国の大学を出ている山口さんならではの三国志へのアプローチの仕方はありますか?今までの三国志のゲームにこれはなかった、というような。

山口:またキャラクターの話になってしまうんですけど、それぞれの武将のイメージって固定化している部分もあるじゃないですか。以前武将のフィギュアを買ってきて、名前を見ずにどれが誰か当てられるかやってみたら、結構当てられたんです。これは何かあるぞと思って、中国のサイトでバーッと武将名で検索してみたら、だいたい同じイメージで描かれているんですよ。ということは、それらと合致しなかったら受け入れられないなと思いました。

安藤:やはりビジュアルのイメージには、共通したものがあるわけですね。

山口:実際にゲームをつくっていて、見た目で誰だかわからないものや、誰々だと言われても納得できないものがポロポロと出てきた時期があったので、そこは苦労しました。

安藤:どんな武将のビジュアルがつくりにくかったんですか?

山口:文官系の武将です。エピソードがあまりないので、イメージが膨らまないんですよ。

安藤:イメージの話で言うと、ホウ統の扱いは難しくないですか?孔明と双璧をなすほどの軍師ですが、外見についてあまりいい記述はされていませんし、どんなにスゴい武将でも見た目がさえないオッサンだと感情移入できないことがあると思うんです。横山光輝の三国志では悪いルックスではありませんけど、サンロワのホウ統も不細工ではなくむしろカッコいいですよね。そのあたりはどういうふうに決めていったんですか?

山口:キャラクターに魅力がないと思われるのは良くないので、魅力的な部分もつくりつつゲジ眉ワシ鼻などの要素をうまく入れて下さい、という感じで進めました。たとえばホウ統の目には固定化したイメージがないので、じゃあ目をキリッとさせてみよう、と。

安藤:なるほど。そういう感じで調整していくと、イメージがからかけ離れたキャラクターにはならないですよね。

山口:ただ物語の後半の晋国あたりになると、武将のイメージがほとんどないんですよ。

安藤:そもそもビジュアルとしてあまり出てこないですものね。

山口:今、ゲームでも後半の武将が登場し始めているんですが、やっぱり難しいですね。

三国志ロワイヤル:召喚★アプリ神 ↑身分にこだわらず才能を重視して人材を登用した曹操の考え方など、随所に拘りが演出に生かされている。

■ 三国志好きの2人……話はどんどんマニアックな方向へ

安藤:週刊アスキーの対談でこんなことを聞くのはなんですけど(笑)、山口さんのように三国志を読み込んでいる方に、ぜひうかがいたいことがあるんです。蜀の北伐が成功するチャンスはあったんでしょうか?孔明の延命の祈祷を魏延が邪魔しなければあるいは……という感じで吉川英治も横山光輝も描いていますが、そもそも蜀は地の利も悪いし、致命的な失敗も何度かしている。戦略的にも難しかったんじゃないかと思うんですがどうでしょう。

山口:僕は”無理派”なんですよ。魏と蜀では領土の大きさが全然違うじゃないですか。蜀は領土が広くても山ばかりで、人口も少ない。演義では、劉備が夷陵の戦いで数十万人の兵士を連れて行くんですけど、蜀滅亡時の全人口が90万人ですから、あり得ない数字なんですよ。でも人口の多い魏だとじゅうぶんあり得る数字で、それだけの差があるのに北伐に行っても、普通に考えて無理ですよね。 どんなに孔明がすごくても絶対に魏には勝てないと思います。

安藤:やっぱりそうですか。

山口:孔明は魏の手薄なところを攻めますけど、蜀の隣には呉があるし、南蛮の孟獲も抑えはしましたが異民族だからよくわからない状態ですし、反乱も起き始めていました。となるとあまり戦力は割けないし、絶対に無理だったと僕は思います。

安藤:呉のほうにはチャンスはあったんでしょうか。3代目の孫権が死んだ後に内部でゴタゴタが起こって、その間にに西晋にやられてしまいましたけど。

山口:呉も無理じゃないでしょうか。

安藤:魏がやっぱり圧倒的なんですね、三国鼎立してからはね。

山口:呉の武将もすごいですがみんな歳を取っていて、若い人だと陸遜(りくそん)とか、陸遜の息子ぐらいしかいなくなってしまう。魏は羊コをはじめ、まだまだ人材が豊富でしたから。

安藤:そういう事実を分かりながらも判官びいきなところがあって、三国志は今も人気の作品なんだと思うんです。ユーザーがもつそれぞれの国や武将たちへの思い入れに対して、ゲーム的におもてなししているところや、これからやっていこうと思っていることはありますか?

山口:魏は有名な武将が多くてビジュアルがつくりやすいんですが、蜀にも呉にも良いところがありますよね。そこはうまく出していきたいと思います。個々の武将にフォーカスした、マニアックな武将だけの人物伝を実はそろそろリリースしていくつもりです。

安藤:どのぐらいマニアックな武将なんですか?さしつかえなければ教えてください。

山口:呉蘭(ごらん)や賀斉(がせい)などです。

安藤:確かに、マニアックですね(笑)。でも三国志のタイトルが増えてきて、ファンの人も濃くなってきている今なら全然アリだと思いますよ。日本人が独自に掘り下げてきた三国志という世界が、今すごく進化していっている気がしますよね。

三国志ロワイヤル:召喚★アプリ神 ↑スクウェア・エニックスプロデューサー、安藤武博氏。

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