freee株式会社 代表取締役
佐々木大輔
freee株式会社の代表取締役。学生時代、インターネットリサーチ会社インタースコープ(現マクロミル)にて、新しい調査手法の開発に従事。卒業後は博報堂を経て、CLSAキャピタルパートナーズに参画し投資アナリスト、その後レコメンドエンジンのスタートアップであるALBERTにてCFOと新規レコメンドエンジンの開発を兼任。この後Googleで日本およびアジア・パシフィック地域での中小企業向けのマーケティングチームを統括し、同地域での中小企業におけるオンライン広告プロダクトの浸透に大きな実績を残した。2012年7月freee株式会社を設立。一橋大学商学部卒。専攻はデータサイエンス。
速水:まずは「“クラウド会計ソフト”とはなんぞや?」というところからお聞きしてもいいですか。中心となるユーザーは“スモールビジネス”だという言いかたをされていますが。
佐々木:はい。現在では10万のスモールビジネスの事業者さんに使っていただいています。
速水:大企業というよりも、さらに多様な会社のかたがたという感じですか。
佐々木:そうです。個人事業主のかたも含めて。
速水:個人のかたもですか?
佐々木:ええ、いわゆる青色申告をしているかたですね。あとは小さな法人がほとんどです。
速水:そういうかたがたに向けて、会計機能のサービスを提供しているわけですね。僕も一応、個人事業主なんですが、そういう会計的なものには一切センスがなくて(笑)。“freee”もアプリをダウンロードして手を出してみてはいるんですけど。僕の場合はかなり家計簿ソフト感がある(笑)。本当はもっと本格的に使えるはずですよね。売りは、どういうところになるんですか。
佐々木:いま家計簿ソフト感覚とおっしゃいましたが、それが大事なところなんです。いままでのビジネス向け会計ソフトって、簿記の知識がないと使えないものばかりだったんですよ。
速水:ああ、プロ用なんですね。
佐々木:でもそうじゃなく、まさに家計簿感覚で使える会計ソフトというのが売りです。そうやって、簡単に使えるようにしましたというのがひとつめ。ふたつめは、それを自動にしたということ。
速水:自動、ですか?
佐々木:いまやオンラインバンクやクレジットカードの明細とかは、ウェブで見られるじゃないですか。それを自動でfreeeが会計情報に変換するんです。使うかたからすれば、クリックして承認していくだけです。
速水:ほほう。できるヤツなんですねえ。
佐々木:これまでは何月何日にいくら、なにに使って、これはどこに分類されて、と。
速水:全部、自分で打ちこまなければいけなかった。
佐々木:それが自動でインポートされ、自動で分類される。あとは確認程度でボタンをクリックしていくだけで登録できる。さらに、どんどん学習もしていくので、最終的にはなにもしなくても自動的に会計帳簿ができる。
速水:なにを学習するんですか。
佐々木:たとえば個人からこういう振り込みがあれば、これは売り上げだとか、もしくは個人に対してこういう支払いがあれば、これは広告宣伝費だなとか。そういう分類をテキスト解析で学習してくれるんですよ。
グーグルで学んだことはやはり大きいです
速水:ちなみにグーグルで働いた5年間というのは?
佐々木:僕自身のキャリアのなかでもいちばん長くいた会社です。ただ、まったく飽きなかったですね。やっていることが3ヵ月ごとに変わるので。
速水:へえー。3ヵ月で?
佐々木:最初、僕はデータサイエンティストとして入社したんです。日本ではまだグーグル検索がそれほど使われていなかったころで。
速水:何年くらいですか。
佐々木:2008年です。
速水:データサイエンティストとしてということは、その前にやっていた、知り合いのベンチャーで経理と開発の両方やっていたというところから直接つながるんですか。
佐々木:実は僕がその前にいた会社というのがレコメンドエンジンという、ようはeコマースの購入履歴や閲覧履歴からオススメの商品を選び出すという技術で、僕はそこのアルゴリズムの部分の開発をやっていたので。
速水:なるほど。でも、そうか、3ヵ月ごとに仕事が変わるんだ。
佐々木:ええ。ちょうどリーマンショックの年だったんですが、もう少し日本でもグーグルの本業の広告ビジネスでできることがあるのではと思ったんですね。それでいろいろ調べてみると、スモールビジネスの人でも広告をちゃんと出せるようにするための販売促進をやっていないと気づいて。それで日本でやってみたら成果が出たので、そのうちアジア全体でもやろうということになり。
速水:そのステップもすごいですね。グーグルで学んだものって大きいですか。
佐々木:やはり大きいです。
速水:ちなみに、会社のロゴのツバメのマークはどういった意味合いがあるんですか。
佐々木:世界でいちばん速い鳥ってハヤブサとツバメらしいんですが、ハヤブサは落ちるときに速い。ツバメは羽ばたいて飛ぶときに速い。落ちるときに速いというのはちょっと縁起が悪いので、ツバメにしました(笑)。このfreeeを使うと経理の仕事がすごく速くできるというのがひとつと。もうひとつは経理とかバックオフィスの業務、本業ではない部分からみんなを解放したいという思いがあって。それで解放の象徴といえば鳥かな、と。
速水:なるほど。だけど、今年から会計制度の変更があったりもして、それが背中を押しているということもありませんか。
佐々木:はい。消費税の改正、これは来年もあるんですけど。そうするといままでのようにインストールするタイプのソフトだと、そのたびにアップデートしなければいけないけれども、クラウドだとつねに最新版が使えますから。あと最近ではウィンドウズ XPのサポート終了問題もあって。
速水:中小企業は多そうだ!
佐々木:パソコンを買い替えると、インストールしてたソフトってどうやったらいいのかよくわからなくなっちゃうものですが。クラウドのものであれば、どんな端末からもログインするだけで使える。こういうやりかたのほうが今後は主流になっていくんじゃないかなと思います。それに、流れとしてはタブレットが、そのうちたぶんパソコンよりも数が多くなりそうですし。
速水:その点、すでにアプリ対応もされていますもんね。
佐々木:これからはインストールして使うソフトウェアよりも、やはりこういうクラウドを使ったものが、流れとしては増えていくのではないかと思いますね。
今回の聞き手
速水健朗(はやみずけんろう)
73年11月9日生まれ、石川県出身。編集者・ライター。著書に『ラーメンと愛国』(講談社刊)、『自分探しが止まらない』(ソフトバンク刊)ほか。
http://www.hayamiz.jp/