第1回目のゲストはこの人、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの『パズル&ドラゴンズ』プロデューサー、山本大介さんです。
↑山本氏(右)とお決まりのポーズを決めているのが、スマホ用のRPG『ケイオスリングス』シリーズやカードバトルRPG『拡散性ミリオンアーサー』などを手がけた、スクウェア・エニックス安藤武博氏(左)。■ 初対面から2年が経過した今、さらに熱くゲームづくりを語る!
安藤武博氏(以下、安藤) 山本さんとこうやってオフィシャルで対談するのは、『パズル&ドラゴンズ』で『クリスタル・ディフェンダーズ』がコラボした2012年末の対談以来ですね。よろしくお願いします。
山本大介氏(以下、山本) よろしくお願いします。
安藤: 最初にお会いしたのは2012年3月ぐらいで、パズドラが始まってまだ1ヵ月くらいで、僕もまだ『拡散性ミリオンアーサー』は出していなくて、『ケイオスリングスII』を出したあとぐらいでした。そのときにはもう売り切り型のアプリだとパズドラに勝てない状況になっていて、勝てないどころかパズドラは2年間ずーっとランキング1位でした。お互い運営系のゲームに携わって2周年を迎えたわけですが、長いようであっという間でしたね。
山本: あっという間ですね、本当に。
安藤: その間にいろいろありましたよね。去年の年末には3DSで『パズドラZ』が出て、それがなんとミリオンセラーに。スマホから始まったタイトルがコンソールでミリオンヒットを飛ばしたことは、僕のようなスマホのゲームに携わっている元コンソールの人間としては感慨深い出来事で、お祝いに2人で飲みに行ったりしました。パズドラZも出て、『パズドラW』もいよいよ出るじゃないですか。
山本: パズドラWは、今かなりテコ入れをしていまして、いろいろ変わるかもしれません。画面を上下2画面に分割して、タイトル画面の上をパズドラ、下をパズドラWにしようと思っています。
安藤: タイトル画面で2つ選からべるわけですね。画期的ですね、スーパーファミコンの『ドラクエⅠ・II』を思い出します。
山本: そうです、あんな感じです。
安藤: パズドラは2年間続いてきたわけですが、そうなると次の関連作品は続編や正統後継作品が望まれるだろうし、初代のパズドラを愛している人もたくさんいる。そういうなかでどうやって切り替えてパワーアップしていくかって難しいじゃないですか。
山本: そうですね、難しいです。
安藤: 僕たちは拡散性ミリオンアーサーに関しては、『乖離性ミリオンアーサー』というタイトルを単独で展開して、拡散性と両方やっていこうと思っているんです。でもパズドラでは、ひとつのクライアントに2つのゲームを入れている。その狙いはどこにあるんですか?
山本: ひとつは、今パズドラを遊んでいる人の利便性を優先した結果です。全く異なるふたつのゲームとはいえ、我々は両方のゲームをいっしょにプレイしてもらいたいと考えています。
それなら1本にまとめたほうがいいなっていうのと。また、今回のもうひとつのメインターゲットが、かつてパズドラで遊んでいたけどやめてしまった人なんです。アプリは入っていると思うので、パズドラWが始まって活気づいてきたときに、そういう人たちにアップデートして遊び直していただけたらいいなと。
安藤: 2000万ユーザーを超えたアプリとなると、遊んでいる人の数も途方もないですけど、その一方でやめてしまった人の数も途方もないですよね。それってパズドラにしかないスケール感だなと思います。
↑パズドラWは7月17日にリリースが決定した。■ パズドラヒットの秘密は地をはうようなマーケティング!?
山本: 昔はよく居酒屋さんに行って、店員の人に「パズドラで遊んでいますか?」って聞いて、遊んだことがない女の子にはお願いしてダウンロードをしてもらっていたんですよ。
安藤: そうですよね、販促用の名刺をつくった先駆けですし。僕らもマネをしてくったので、今スマホゲーム業界では名刺ブームが起こっていますが、山本さんは初期のころから、飲みに行くと店員さんに名刺を配っていましたよね。
山本: トータルで300万、400万ダウンロードは名刺の効果だと思っています。例えばイケメンの店員さんに興味がある女の子が10人いたら、その10人も落としてくれるじゃないですか。その10人の中に1人でもキレイなコがいたら、またそこから10人。だから3〜400万はいっていると。
安藤: ウェブマーケティングに衝撃が走りますね、パズドラがヒットした秘密は実は名刺だったという(笑)。
山本: 地をはうようなマーケティングでしたけど、当時は本当に楽しかったですね。でも最近ヘコむのが「前に遊んでいました」っていう人がいることです。だいたい数ヵ月前から1年ぐらい前に止めたという方が非常に多いんですね。で、最近何をやっているのか聞くと、女の子だと『LINE ディズニーツムツム』ですね。まあ、ツムツムは面白いですけど……。
安藤: パズドラをスタートさせたときは、今のように長期間続くと考えていましたか?
山本: いませんでしたね。昨年も「今年が最後かな」と言ってましたし、一昨年も「1年もったらいいね」って言っていました。
安藤: そもそもパズドラの以前のゲームって、パッケージでも長くて3ヵ月遊べばしゃぶり尽くしたかなという感じだし、当然それより先のことって皮算用になりますよね。飽きるのがゲームの健全な形だと思っていながら、2年経って「以前遊んでいたんです」って言われると、やっぱり「くそー」って思うんですね。
山本: そうなんですよね。遊んでいた人にやめてしまった理由を聞くと、途中で難しくなったとか、先に進めなくなったという方がほとんどで、完全に飽きちゃった人は意外にいないんですよね。でもそういう人たちにもう1回遊んでくださいとお願いしても、一度つまずいているから遊んでいただけないんです。なので『パズドラW』みたいな遊びやすいもので、もう一度触っていただければと。
安藤: パズドラはロングセラーと呼べるものになったわけですが、2年間となるとスマホの運営系のゲームでは前人未到の長さですよね。今まで誰もやったことがないことを、運営などでやっていかなければいけないと思うんですけど、それに対する答えをパズドラは出しはじめているのかなという気がするんです。この後もロングセラーが続くとなると、もしかしたら5年10年、さらに長く続くことにリアリティーが増してきたじゃないですか。
山本: そうですね。
安藤: マンガやドラマでいうところの長寿連載や長寿シリーズになっていく可能性があるので、先を見据えた展開をスマホの世界で初めて試していかないといけない。すごくエキサイティングですが、それはそれで大変だなと思います。新しいものを作るのとはまた別の大変さがあると思いますね。
安藤氏がもっている名刺はパズドラとクリスタル・ディフェンダーズがコラボした際につくられたもの。■ 次の山本氏の新作に安藤氏が望むもの
山本: 安藤さんには何度もお話ししているんですけど、パズドラの曜日ダンジョンは最初からあったわけではなくて、テコ入れをしながら入れたんですね。
安藤: そうでしたね。曜日ダンジョンって本当にポピュラーなものになりましたね。
山本: でも社内のタイトルでも、曜日ダンジョンをつくった最初の経緯が伝わりきっていないところがあるんです。ほかのゲームの曜日ダンジョンでも、そこでしか取れないレアな進化素材が入っていたりするんですけど、パズドラの場合は普通に遊んでいれば手に入るものが取りづらかったり、間違えて売却してしまったときのために、いわば初心者の救済として入れたんです。
安藤: ほかのゲームの曜日ダンジョンは、パズドラのものとは本質的に違う、ということですね。
山本: 曜日ダンジョンを継続率維持のためと思われている方がいるんですけど、1週間待てずにやめてしまう人も多いと思うんです。特にゲームを始めたてのユーザーさんに対しては、普通に遊んでいれば進化できるようにゲームをデザインしてあげないと、初期で相当取りこぼしてしまう可能性がある。なので、そういうことをもうちょっと伝えていかないといけないと思っています。ぱっと見だけで判断しないで、狙いや本質をもうちょっと理解して活かしてほしいなと思いますね。
安藤: パズドラは外側から見た成果が圧倒的なので、ゲームのテーマや遊び方が違ってもパズドラのように見せないとダメ、という風潮が今はありますよね。例えば僕は、『チェインクロニクル』の出撃選択画面がすごく優れていると思うんです。本当に画面ギリギリの限界のところでキャラクターを出す見せ方、あれこそゲームの色気を表現していると思うんですけど、『チェインクロニクル』を手がけられたセガの松永さんは内部の人から「パズドラのように小さいサムネイルにしろ」とずーっと言われていたんだそうです。なぜかというと、売れているパズドラがそうなっているから。
山本: そうなんですね。
安藤: 乱暴な言い方をすると、パズドラがスマホゲームの進化の可能性をこう着させてしまったり、止めている部分もあると思うんです。だから僕は山本さんには、「これはパズドラだからこうしていて、ほかのゲームであればホーム画面のデザインも違えばサムネイルの切り方も違うし、そもそもお金の取り方も変わってくる可能性があるよ」と、そろそろ提示してほしいなと思っているんです。
山本: そうなんですよ、つくりたいと思っているんですけどね。
安藤: ゲームデザインの可能性をこう着させないためにも、山本さんも新作をつくると全然違う、やっぱりゼロからつくっちゃうんだという説得力のある作品を出して欲しいし、そろそろ見せて欲しいなと、いちファンとして、いち業界の仲間として思いますね。
山本: 実は次は、売り切りがいいかなと思っているんです。売り切りもビジネスモデル的に完全にダメなわけではなくて、『マインクラフト』みたいな例もありますしね。売り切りで運営コンテンツではないんですけど、プレイヤーが自分たちで運営していくじゃないですか、「すごいのつくったよ」ってスクリーンショットや動画をアップしたり。そういう手法もあるでしょうし、マネタイズもガチャだけがいいかというとそうでもないと思っていますし。
安藤: そこはやっぱり、クローズアップしてはっきりと言うべきですね。
山本: なのでパズドラWは、売り上げ的にどれだけうまくいくかはまったくわからないですけど、ガチャで課金だけはしない予定です。それはやっぱり第一歩ですね。
■ 山本氏がiPhone 4を使い続ける理由
安藤: 山本さんはガラケーの時からゲームを量産していて、いわば制限と戦いながらゲームをたくさんつくってきた人なので、パズドラでも足し算をせずに、制限の中で引き算をしていくゲームデザインが特徴的かなと思うんです。次につくるとしたら、やっぱり自分の中で制限を設けた上でやるのか、それとも今おっしゃったように古い機種は切り捨ててちょっとだけハイブローなものを目指すのか、次回作に限っていうと、どんなイメージですか?
山本: 制限のなかでつくると思うんですけど、通信バリバリなゲームではないでしょうね。さすがにiPhone 4はもう切り捨てていいと思うので、ちょっと別のつくり方をすると思います。
安藤: 山本さんはプライベートでiPhone 4を使われているじゃないですか。パズドラのお客さんはこのぐらいのスペックの人が多いから、自分が最先端のスペックだとお客さんの不自由がわからない、というのが理由なんですよね。
山本: そうなんです。ちょっと油断すると、iPhone 4では処理落ちすることがありますので。パズドラの場合、中高生、特に中学生はiPod Touchで無線LANに繋がるときに遊んでいる子が多いみたいなんですね。iPhone 4を切り捨てると、その子たちを切り捨てることになってしまうのでよくないかなと。
安藤: iPhone 4って、歴代iPhoneのなかでも鬼っ子みたいなスペックで、ちょっとハイブローなことをするとすぐ固まったりする。4Sでも3GSでもなくて、4に定めて使っているのは、大勢のお客さんのことを見ていてすごくいいなと思いました。
山本: 僕は人より入るのがちょっと遅いんですよ。iPhoneも3GSじゃなくて4から入ったんです。実は任天堂ハードのDSや3DSも、本当に欲しいと思ったゲームが出たあと、発売してからだいたい1年後ぐらいに買っているんです。そこが僕のモノづくりの原点というか、流行っているものに僕自身が追いついたころにつくり始めるという感じです。そこらへんも、iPhone 4をわざわざ使っている理由のひとつかもしれないですね。
安藤: 横井軍兵さんの“枯れた技術の水平思考”を思い出しますね。技術がこなれてきて誰もが活かせるようになったときに、初めてその技術が活きるから、先端の技術に飛びつくなと横井さんは言われ続けていました。それと本質的にすごく近い気がします。
山本: 逆にプログラマーや技術をやっている人は、最先端のものが好きな人が絶対にいいですよね。新しい技術を自分で取ってきてくれるし、そこはお互いのバランスかもしれないですね。全員僕みたいな、ちょっと時代に遅れがち人ばかりだとものをつくれないので。
安藤: その案配が面白いですよね。特にスマホの市場だと半年に1度ぐらい新しいものが出るので、どこにベンチマークを定めて何を今つくったらいいのか、何が今旬なのか見極めるのが難しいですよね。
山本: ガラケーの時代と比べると、アプリもどんどん変わっていきますよね。今スマホゲーム市場がかなり大きくなっていますけど、まだ何があるかまったくわからない。
安藤: 今までの歴史を振り返ると何かが起こることは確実なんでしょうけど、どういうふうに変わるかまったくわからないですよね。でも僕はトランプの大富豪でいうところの“革命”が起こるのがすごく好きなんです。
山本: 楽しいですよね。
安藤: 楽しいです。スマホはそのなかでもド革命でした。新しいガジェットに飛び付いてささやかに何かをつくろうと思っていたら、見方によってはスマホがゲームというエンターティンメントのメインにきてしまった。こんなことが起こるなんてまったく思っていなかったので、びっくりしているんです。
山本: そうですね。でもやっぱり楽しさを本当に体験するには、新しいゲームをつくらないとダメですよね。
■ 山本氏だけがもつ世界で唯一の悩み
安藤: クリエーターであれば、売れたらまた新しいものをつくりたいと思うのが当然なんですけれども、山本さんはたぶん世界で唯一といっていいぐらいの悩みを抱えていると思うんです。新しいものをつくりたいけど、パズドラを守ったり、手厚くしていかないといけない。言ってみれば守りながら攻めていくっていうことをしていかないといけないぐらいのブランドにパズドラはなっているんですね。
それって、堀井雄二さんと同じ領域だと僕は思いますよ。もし仮に『ドラクエ』がなければ、堀井さんの新作がたぶんいっぱいが遊べたと思うんです。この前対談した時に堀井さん自身も言われていますけど、スマホだったらアドベンチャーゲームをやりたいと。虫眼鏡をカーソルで動かす必要がないし、そういうものをと相性がいいから、と。スマホのゲームをゼロから考えたときに、そういうこともできるよね、って言われていたんです。でも堀井さんは、「いやいやその前に『ドラクエ』をつくってくださいよ」と言われてしまう(笑)。それがヒットメーカーのジレンマなんだなと思うので、僕もね、ちょっとイジワルで山本さんに聞いているんですよ、次回作をどうするのかって(笑)。
山本: 今年は確実に着手はをしようと思っています、と、去年も言っていたんですけどね(笑)。でも今年はやる予定です。徐々に開発を引き継ぎつつありますし、最近はプロデューサー業というか、こういった雑誌の対談のような仕事が増えているんですけど、いまだに新しいモンスターのパラメーターを全部見ているんですよ。運営が走っているんだから誰でもできるでしょうって思われがちですが、実はモンスターの数が増えるほど新旧のキャラの能力やリーダースキルが複雑に絡み合うので、初期のころよりもゲームデザイン的には難しいんですね。長くやっているメンバーもいるので、新キャラをいっぱい出すときに徐々に引き継ぎつつも、僕がしっかり見てパズドラのバランスをしっかり保っていきたいと思いながらやっていますね。