週刊アスキー本誌では、角川アスキー総合研究所・遠藤諭による『神は雲の中にあられる』が好評連載中です。この連載の中で、とくに週アスPLUSの読者の皆様にご覧いただきたい記事を不定期に転載いたします。 Glasshole(ARメガネ中毒者)の密かな楽しみ
リュミエール兄弟の映画もテクノロジーの産物。メディア=テクノロジーだと言っていいのだとすると進化しか知らないわけだ。
鈴木光司の原作『リング』は、それを見ると1週間後に呪い殺されるという“呪いのビデオ”のお話で、ある意味“メディア技術”が主役だったと言ってもよい。『貞子3D 2』では、ACR技術を日本エヴィクサーが提供、アプリ制作を面白法人カヤックが担当している(非可聴領域の音に反応するらしい)。テレビ番組から関連情報につなぐ仕組みとしては、6月にフジテレビが発表した『メディアトリガー』というアプリがあり、こちらはヤマハとの共同開発となっている。
(C)2013『貞子3D2』製作委員会
「観るのではない。そこにいるのだ。」という宣伝文句で映画『アバター』が公開されたのが、'09年末。これが大ヒットして3D作品も出続けてはいるが、3D映画が“本物”のエンターテインメントとして定着したかは疑問だ。そんな、モヤモヤ感のあった業界に「飛び出すんならコレでしょ」と、えらいシンプルな発想で作られたのが『貞子3D』。昨年5月に公開されると、全国の“女子高生”を巻き込んで、異例のヒットとなった。
さて、その続編『貞子3D 2』が8月30日の公開だが、今度は“スマ4D”なのだそうだ。4Dたるゆえんは、映画を見ているときに自分のスマートフォンが勝手にブルブルと震えたり、メッセージが来たり、怖い画像が表示されたりするという(やりますなー)。海外メディアも伝えているとおり世界初の試みなのだが、これを可能にしているのが、ACR(自動コンテンツ認識)と呼ばれる技術である。
米国では『IntoNow』というアプリが有名で、テレビを見ているときにスマートフォンやタブレットをかざすと、音声を解析してどの番組のどのエピソードかなどを特定する。なんと、190局のテレビ放送、過去7年ぶん、360万本の番組を認識してしまうのだそうな。私も、スカパー!でやっている『HAWAII FIVE-O』でやってみたが、一発で、番組や役者の公式サイト、コマースやツイッターなんかにつながった。『貞子3D 2』の場合は、情報を表示するかわりにスマートフォンが映画の演出として使われるわけだ。
ACR技術は、映像以外にも、音楽では喫茶店などで流れている楽曲がわかる『Shazam』などがあるし、雑誌や本のページから関連ページにリンクするリコーの『TAMAGO Clicker』などもある。要するに、スマートフォンやタブレットの広がりによってこうしたことが可能になってきたわけだ。しかし、本命は、『Google Glass』などのウェアラブルの世界ではないかと思う。
米国では、Google Glassに飛びついてトチ狂ってる連中のことを「Glasshole」(ARメガネ中毒者)などと呼んだりしている(日本にも神戸大学の塚本昌彦教授という元祖・教祖的な先生がおられますが米国ほどの盛り上がりではないように見える)。そんななか、グーグルが、人の顔を認識するGlassAppを禁止するとしてニュースになった。顔が、ポルノと同じように禁止されるのはちょっと奇妙だが、その人の情報がオーバーラップして表示されるのだとしたら、裸と同じようなことかもしれない。つまり、周囲の人たちのプライバシー意識を配慮してのことだろう。
ところが、Lamda Labsという会社が「自分たちでOSから作るからいいもんね」と言いだしていて、グーグルはこれをコントロールできないだろうというのが業界の見方だ。はたして、目耳に入ってくるあらゆる情報が自動認識されて、タグ付けされる時代がやってくるのだろう。自分よりも先にプログラムが反応して「この子やべぇー」みたいなことを言うようになるのですかね?
【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。元『月刊アスキー』編集長。元“東京おとなクラブ”主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、ネット時代のライフスタイルに関しての分析・コンサルティングを企業に提供し、高い評価を得ているほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。関連する委員会やイベント等での委員・審査員なども務める。著書に『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書)など多数。『週刊アスキー』巻末で“神は雲の中にあられる”を連載中。
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