2030年に火星有人探査を目指すNASAは、本気でこの問題に取り組む基礎研究を始めた。ハワイ大学マノア校とコーネル大学が共同で実施する、その名も"ハワイ宇宙探査模擬実験プログラム:ハイシーズ(HI-SEAS:Hawai‘i Space Exploration Analog and Simulation)"。
撮影:Dr. Sian Proctorマウナ・ロア山、約2400メートルの位置に火星の環境を模して造られた居住施設では、地質学や天体物理学などを専門とする6人の科学者が、2013年4月半ばから4ヵ月間、火星探査のための滞在型実験を開始している。外に出る場合は宇宙服を着用し、施設内では保存食品を調理して食事をつくる。これがハイシーズの正当なミッションだ。
撮影:Dr. Sian Proctor国際宇宙ステーション(ISS)の微小重力環境化ではそもそも調理が困難だが、重力がある火星(地球の3分の1程度)なら、鍋に水を張り、フライパンで材料を焼いて調理ができる。また、後片付けも含めた水やエネルギーの使用量、研究の本業をもつクルーが調理に費やす時間のやりくり、こうした点も検証している。
撮影:Dr. Sian Proctor備蓄リストの野菜はほとんど乾燥野菜で、昆布、のり、ひじきなどの和食素材も加えて35種類。米や小麦などの穀物類が18種類。パスタや春雨といった乾麺9種類と、豆類が10種類、チーズや粉末ミルクなどの乳製品が11種類あり、フリーズドライの牛・豚・鶏肉やソーセージのほかツナ缶など缶詰を加えた16種類がメインディッシュとなる。また、ドライフルーツはパイナップルやレーズン、ベリーなど27種類と、食品は軽く100種類を超える。
そのほか、砂糖、塩、ケチャップ、わさび、出汁の素といった、80種類以上のスパイスやオイルもふんだんに用意され、変わったところでは湯葉や油揚げ(缶詰)などもリストに入っていた。お菓子はクラッカーとポテトチップス。これだけ火星にもっていければ、結構楽しい食事が楽しめそう……。
さて。せっかくなので、公開されたレシピで、火星メニューに挑戦してみた!
■火星料理その1 『オメガパティーズ』をつくろう!
材料(8人ぶん):鮭水煮缶詰 4個、小麦粉 大さじ1、マヨネーズ 1カップ、亜麻の種(挽いたもの)1カップ ※約100g、パルメザンチーズ 1カップ、ガーリックハーブシーズニング 大さじ1、オニオンパウダー 大さじ1/2、チリペッパー 大さじ1/2、塩 小さじ1/4、コショウ 小さじ1/4
これは鮭の水煮缶詰でつくったパティをパンにはさんだ“鮭バーガー”。名前にある“オメガ”とは何のことかと思えば、鮭缶と亜麻の種、どちらもオメガ3脂肪酸が豊富なメニューだからだそうな。
<つくりかた>
(1)ボウルに缶汁を切った鮭、小麦粉、亜麻の種、パルメザンチーズ、マヨネーズを入れ、鮭をほぐすように混ぜる(鮭缶の小骨、中骨はやわらかいのでそのまま)。※亜麻の種(フラックスシード)は自然食品の店などで手に入るが、粒のままではパティの種になじまないため、すり鉢で細かくしてから(胡麻でいえば半ずりくらい)混ぜてみた。
(2)塩コショウ、シーズニングをすべて入れ、さらに混ぜる。
(3)8等分して厚さ1.2cmほどの平たい円形に形を整える。
(4)オーブン用シートに乗せ、180度のオーブンで25分間焼く。
(5)パンをトーストし、焼きあがったパティを挟む。水戻ししたドライトマト、キャベツ、オニオンとポテトチップスを添えて完成!
もともと鮭は香りのしっかりした魚なので、たっぷりのパルメザンチーズとシーズニングを入れると複雑で濃い味に。そのわりにパティ1個あたり塩分は1g程度と控えめ。試食した家族3人とも「おいしい!」と高評価。ハイシーズのクルーは、食事用のパンも自分達で焼いているらしく、しっかりした重めのパンが合うようだ。
■火星料理その2 『スパムむすび』をつくろう!
材料(6個ぶん):ご飯 米2カップ、スパム 1缶、のり 2枚 ※幅5~6cmに切る、しょうゆ 1/3カップ、砂糖 3/4カップ
<つくりかた>
(1)スパムを6等分にスライスする。スパム1缶は高さ約7cmなので、1枚当たり1cm強くらい。
(2)フライパンに砂糖としょうゆを入れ、弱火で砂糖が溶けるまで混ぜる。スパムを入れ、中火で、タレが煮詰まって焦げる手前まで砂糖醤油をからめながら焼く。
(3)ご飯を皿に広げ、スパムの空き缶を押し付けて型抜きしスパムと同じ大きさに整える。
(4)スパムのたれを切ってご飯に乗せ、のりを帯状に巻く。
しょっぱいスパムをさらに砂糖じょうゆで照り焼きに!? と最初は思ったが、たれの香ばしさが加わってスパムがより美味しくなった。のりの風味も必須。微小重力環境では頭部に血が集まりやすく、味を感じにくくなると言われている。宇宙飛行士はしっかりした味付けをおいしく感じるようなので、これくらい濃い味のほうが宇宙向けなのかも?(ハイシーズでは減塩スパムを使っている)。また、スパムの空き缶を使ってご飯の形を整えていたが、日本人なら、俵型おむすびをつくってカタチを整えるほうが早いかも。
ちなみにハイシーズの居住施設は、標高2400メートルの山上(富士山の五合目くらい)にある。
"ハイシーズ ハビタット"と呼ばれるドーム状の基地は、オフィス、研究室、キッチン、ダイニングなどをもつ1階と、クルー6人の個室がある2階で構成されている。ドーム外には、電源供給ユニット“HYGEN”が設置され、これは太陽電池パネルとディーゼル発電機からなる高効率の電源装置で、連続的に20kWの電源供給が可能だ。研究設備とともに6人が住む家としては小さめかもしれない。
撮影:Dr. Sian Proctor主任研究員のキム・ビンステッド博士によれば、「クルーの水・エネルギー使用量は常に計測されており、シャワー設備の使用は1週間にひとり8分」なんだとか。
撮影:Dr. Sian Proctor第1回ハイシーズ居住ミッションは、今年の8月13日に終了する。まもなく第2回ミッションの参加者公募が行なわれ、2014年1月より次回の居住実験が始まる。生鮮食品(野菜)の栽培や探査ローバーの実験なども加えながら、居住期間を延ばしていき、今後は1年間の居住実験も行なっていくとのことだ。
撮影:Dr. Sian Proctor 撮影:Dr. Sian Proctor↑パンケーキやチャーハンなどもあってどれもおいしそう!
本記事は、週刊アスキーの連載『2013年宇宙の旅 ~宇宙をちょっと知っちゃうコーナー~ 』で紹介した記事の派生版です。週刊アスキーでは、毎週、知っているようで知らない宇宙の知識を、優しく読み解いていきますので、ぜひ、あわせてお楽しみください。
■関連サイト
HI-SEAS