第2回目はまもなく全世界で1億ユーザーを達成し、世界的なサービスに肩を並べることになる日本発の無料メッセ、通話アプリ『LINE』のキーマン、NHN Japanのウェブサービス本部マーケティングコミュニケーションチーム、矢嶋聡マネージャーに話を聞いた。
――サービス開始からこれまでを振り返っていかがですか?
矢嶋聡マネージャー(以下、矢嶋) サービス開始から約18ヵ月。ここまで成長するとは思っていませんでした。スタート当初(2011年6月)はまずは年内100万人を目標としていたのに、いま世界9000万人、国内4000万人というユーザー数(2012年12月末時)で、1億人間近です。街を歩いていてもLINEを使っている人を見かけるのが当たり前になりました。有り難いと思うと同時に、スマートフォンにおけるコミュニケーションインフラとして、品質を落さず、いま以上に使いやすくしなければ、といった責任を痛感しているところです。
――commやカカオトークといったライバルもあります。
矢嶋 スマートフォンのメッセンジャーサービスが次のトレンドの中心になるということで、他社も参入してくることはあらかじめ予想していましたが、思ったよりも遅かった、というのが実感です。世界9000万人、国内4000万人というユーザーベースが我々の強みですので、正直あまり競合は意識していません。ネットワーク型のサービスは個別の機能の優劣よりも、周りの人が使っているかどうか、が重要ですから。だからこそ、我々は他社よりもいち早くサービスをリリースし、通話品質はもちろん、トークのレスポンスの速さなどサービス全体の品質改善に注力してきました。18ヵ月間でのデータと知見の蓄積もそこで活きてきます。
――commはスタンプ無料を全面に打ち出しました。LINEのマネタイズについてどのように考えていますか?
矢嶋 現在はまだ投資フェーズではありますが、スタンプや公式アカウント、プラットフォーム展開におけるコンテンツの有料販売などを日本市場で段階的にテストしており、一定の成果が出ています。スタンプについては無料スタンプも豊富にそろえていますが、有料のスタンプを同時に提供することにより、世界規模のキャラクターコンテンツの流通販売プラットフォームとして、ディズニー様など外部のライセンサー様からも高くご評価いただいています。また、公式アカウントについては、おもに国内の企業を対象に6月より提供を開始していますが、さらに地域密着型の企業にも使いやすい価格設定とした“LINE@”をスタートしました。LINE@は無料でも良いのではないかという意見すらあったのですが、手軽に始められるという利点を活かしつつ、参画企業各社様にはLINEで何ができるか、本気で取り組んでいただきたかったので、最低限のチャージを頂こうということになりました。
――LINE@は従来の企業からのメルマガやTwitter、Facebookの公式アカウントによる告知などとどう違うのでしょう?
矢嶋 TwitterやFacebookは双方向性が魅力ですが、能動的に見に行く必要があり、どうしても情報が他のものに紛れ込んでしまいます。また、メルマガについても、現在はスマートフォンシフトが進んだことで、キャリアメールの開封率が下がっており、以前より効果が落ちていると聞いています。そのなかで、LINEはスマートフォンのコミュニケーションツールとしてアクティブにご利用いただいているので、効果が出やすいというのが前提としてあります。しかも、LINEはチャットツールなので、プッシュかつダイレクトにメッセージを受け取ることできます。スマホをベースにしていますから、常に身につけてもらっている端末に、例えばお昼休みやテレビ番組と連動するような形で、クーポンを届けることもできる。O2O(Online to Offline)に向いたツールである、とも言えるはずです。
――海外展開にも注目が集まっています。Facebookが独自のメッセンジャーを立ち上げたり、マイクロソフトがMSN Messenger終了し、Skypeに開発資源を投入するなど、この分野での動きが激しくなっていますが。
矢嶋 LINEが開始した時点でも、ViberやWhatsApp Messengerがすでに人気を博していました。LINEの成功は国内でもスマホシフトが起こっているときに、スマホに最適化した形、つまりPCベースのサービスのようなログインや会員登録でめんどうなプロセスがない形でリリースすることができました。しかもいわゆるITリテラシーが高い層ではなく、主婦や女子大生のような普通の人たちを対象に、投資としてテレビCMなどを打ち勝負することができたのが大きかったですね。もし同じようなサービスを2013年にリリースしていても上手く行かなかったでしょう。
――各社とも無料通話、メッセアプリを起点として自社サービスへの誘導、連携を図ろうとしています。LINEの今後の展望は? 特にゲームは7月に発表したものと、現在自社で展開されているタイトルは大きく異なっています。
矢嶋 7月にLINEのプラットフォーム構想である“LINE Channel”を発表した直後から、サードパーティーに参加を呼びかけて様々な連携アプリとサービスを展開する想定ではありましたが、ゲームについては、まずはLINEの特徴を活かしたゲームを提供すべきと判断し、少し方針転換しました。すでにあるゲームをLINEでも遊べます、というだけでは意味や価値が薄いのです。ソーシャルゲームのようにバーチャルグラフではなくとも、LINEのリアルグラフでもマネタイズを含めうまくいくことが示せなければならない。幸い、11月に自社開発でリリースしたLINE POPなどで一定の成功モデルを示すことができたので、今後はこのエッセンスをもとに、他のパートナーとの企画を進めていくことになります。
――DeNAのcommがモバゲーへの誘導をおそらく図ろうと言う中では対照的な動きとも言えます。ゲーム以外についてはいかがでしょうか?
矢嶋 我々がNAVERやlivedoor、ハンゲームで培った技術とノウハウを活かしながら、まずは内部で成功モデルをつくろうということで、 ゲーム以外にも『LINE camera』や『LINE Tools』、『LINEキッズ』など様々な取り組みを進めています。なお、唯一我々が持っていないのがECの分野です。ノウハウもなかったため、“LINEシークレットセール”という形で、ユーザー限定で週1回のネット通販を行なってきました。そこで、LINEでの物販が成り立つのかを試してきたのですが、有名ブランド品なども含め好調です。この分野は更にドライブを掛けていきたいと考えています。その他、占いやクーポンなど、自社にはないコンテンツや商材、サービスについては公式アカウントに参加して頂いているパートナーと協力して展開してきたいと考えています。お話ししてきたようにユーザーに提供すべき価値をどう実現するか、試行錯誤が必要な段階ですので、プラットフォームに誰でも自由に参加できる形ではなく、共に企画や仕様を考え育てていく、というフェーズですね。
――無料通話、メッセージアプリ全体について言えることですが、セキュリティーや通信トラフィックに与える影響、そして、いわゆる出会い系問題に対する対策についてはいかがでしょうか?
矢嶋 既に対策が完了しているものと、現在進めているものがあります。アプリストアでのレビュー欄での出会い目的と思われる投稿は削除して頂いています。第三者が運営する非公式の掲示板については閉鎖するよう通達を送っており、送付前の20分の1まで減少するなど効果が現われています。スマートパスに参加しているKDDI様とは、年齢情報の提供を受けて18歳未満の方にはID検索の対象外とする対策をとっており、他のキャリア様とも順次調整を進めているところです。
トラフィック負荷の削減については各キャリア様と協議を進めており、KDDI様については成果が出ています。今年の元旦も、新年の挨拶にLINEの利用が急増することが懸念されたことから、各キャリア様と事前に連携し、対応させていただきました。またセキュリティーの面では、アドレス帳のデータの一部をマッチングのために利用させて頂いていますが、「アドレス帳のデータすべてがアップロードされているのでは?」、「電話番号が開示されるのでは」といった誤解も多いので、周知にさらに力をいれたいと考えています。取得している情報の内容とその使用目的などについては総務省が定めた“スマートフォンプライバシーイニシアティブ”に準拠して対応しています。アドレス帳をアップロードしなくても使えることの周知や、ユーザーの選択肢を増やしていきたいと考えています。
――その認証の一環でもあったFacebookとの連携ですが一旦は開始したものの、不具合があり停止されています。
矢嶋 Facebookアカウントを使った友だち連携についてはリリース後に修正し、認証機能のみとしました。Facebook連携については、引続き、Facebook社とコミュニケーションを継続しています。
――最後に2013年、注目しておいてほしいポイントがあれば。
矢嶋 国内では外部コンテンツパートナーと協力してプラットフォーム展開を広げ、連携アプリ、国内4000万のユーザー様には通話やメールといった現在の基本価値を下げず利便性を向上していくことは引き続きお約束します。海外では、東アジア以外にヨーロッパやアメリカ、南米でもマーケティングを強化し、ユーザー基盤を拡大しながら、本当の意味でのグローバルサービスを目指していきたいと考えています。
我々はあまり長期的な目標を立てないというのが強みでもありますので、2013年LINEがどうなっているか、というのは正直わかりません(笑)。ただ、そんな中で何が出てくるかわからない楽しさというものを、ユーザーの皆さまとも共有できればいいなと考えています。1億ユーザー達成の際には、グローバルで何かお祝いをしたいと思っていますので、そちらも楽しみにしておいてください!
(※本インタビューは2012年12月に実施し、週刊アスキー2013年1/29増刊号(12月17日発売)に掲載されたものを再編集したものです。サービス内容、名称の変更など最新情報を加筆修正して掲載しております)
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