最初は元祖無料通話メッセアプリの雄と日本ネット界最大の巨人ヤフーが手を組んだ。『カカオトーク』のキーマン、ヤフー村上臣CMOとカカオジャパン朴且鎮代表取締役社長に話を聞いた。
――サービス開始からこれまでを振り返っていかがですか?
カカオジャパン朴且鎮代表取締役社長(以下、朴) 2010年3月からカカオトークはサービスを開始しています。韓国語のほかにも日本語や英語など多言語に対応し、ユーザーを増やしてきました。日本では当初、日本国内に住む韓国人から1通ごとに料金が掛かってしまう韓国とのSMSの代わりとして重宝されたことが人気のきっかけでした。そこから周囲に広がっていき、ユーザーの増加に伴い2011年7月には日本法人を設立しました。
ヤフー村上臣CMO(以下、村上) カカオトークの存在はもちろん提携前から知っていましたし、個人的に使ってもいました。実はわれわれも『Yahoo!メッセンジャー』とは別にチャットアプリを“サークル”というコードネームで別につくっていたんです。ただ同時期に朴さんとも話すきっかけがありました。メッセージサービスに思い描く将来像も一致し、立ち上げに必要なスピード感や規模感を考え、ゼロからスタートするよりも強いパートナーと組むことを選択しました。
――ヤフージャパンにとってカカオトークの何が最も魅力的だったのでしょう?
村上 韓国では、ほぼ“メッセージサービス=カカオトーク”という状態になっています。機能と技術力の高さがその人気を支えていますが、たとえば日本で展開する場合のローカライズやローカルサービスとの連携は十分ではない部分も残っていて、惜しいところでした。そういった部分はわれわれが強みとしているところです。(従来のSNSに比べて)濃い人間関係で対話が交わされている、そのコミュニケーションの本質的な魅力に対しての思いが一致したのが、やはり一番の決め手になりましたね。
――とはいえ、非国産のコミュニケーションサービスということで、微妙な文化の違いをどう吸収するのかなど難しい面はありませんか?
村上 たしかに、言語化できない違いというのはありますよね。「もうちょっとふわっと」とか(笑)。やはりネイティブの人間がそういった感覚的な部分も含めてブラッシュアップをしていく必要があります。いままさにヤフージャパンからも旧サークル開発チームから人を出して、同じ場所で作業しているところです。
――提携を発表しどんな反応がありましたか?
村上 ヤフージャパンの持つ安心感、信頼性、認知度という価値がカカオトークにももたらされるという期待は寄せられていると感じています。
ヤフー村上臣CMO――ライバルとの差別化ポイントは?
村上 競合は多少は意識しています(笑)。そもそもヤフージャパンとしてコミュニケーション領域は課題でもありました。ヤフージャパンは現在スマートフォン対応に力を入れていますが、スマホ=電話であり、どうしてもコミュニケーションツールとなり、この領域はちゃんと押さえていきたい。
わたしはスマホを小さなコンピューターだと捉えると失敗すると考えています。「もしもし、はいはい」から生まれたツールなのですから、電話にコンピューター機能がついた、と捉えるべきなんです。その序章がいわゆるガラケーだったと。
とはいえ、ケータイとスマホにはあらかじめSMSなどが備わっている。そんな中どう独自性を出していくか各社知恵を絞っています。そのひとつの答えが感情表現をより豊かにするスタンプだったということでしょうね。しかしスタンプの種類や豊富さで他と差別化するのはかつての着信メロディー同様難しいと考えています。
そこは本質ではなく、いかにユーザーが「ゆるく、濃く」つながることができるか、という価値こそが重要です。リワード広告(成功報酬型広告)を大量に出してダウンロード数を稼いでも、ここが押さえられていなければ意味がない。様々な施策を打ちますが、そこでアクティブ率を高めることができるのがグループ通話機能だと考えています。
カカオジャパン朴且鎮代表取締役社長――グループ通話について、詳しく教えてください。
朴 カカオトーク開発のきっかけになりますが、従来の韓国内のアプリでは1対1でしか使えなかったり、日本では当たり前だったMMSのように写真を送ることもできなかったんです。それらを実現したというのが韓国でカカオトークが支持された大きな理由でした。ところがグループでテキストチャットをしていると、どうしてもやりとりが長くなったり、誰が何を書いたのかがつかみづらくなってしまいます。「だったら話した方が早いんじゃないか」と考え、グループ通話を取り入れたというわけです。
電話にはないボイスチェンジャー機能をつけて楽しんでもらえるようにもしました。バックグラウンドで動作可能ですので、ゲームやほかのアプリを使いながらコミュニケーションをとることもできるようになっています。共同作業にも向いているはずです。
村上 トークしながら調べごとできますからね。僕もよく会食のお店選びに使います。「どのお店だっけ?」って話ながら、みんな一斉に調べだしたりしている(笑)。PCの場合と違ってヘッドセットもいらないし。実はカカオジャパンとの出資提携についても、カカオトークを使って朴さんと交渉を重ねたんです(笑)。
――なるほど! しかし音声通話の場合、その品質も気になるところです。
朴 無料通話サービスの多くは外部のVoIPエンジンを使っていますが、カカオトークはVoIPエンジンのチューニングもサービス開始から自分たちで行なっています。ただ、テストと調整は続けていますが、そもそも音質では従来の電話に勝てるものではありません。つながりやすさ、つながった状態が維持できることが大切だと考えています。ノイズキャンセルについても、周囲の音が聞こえた方がいい(おもしろい)場面もあります。
村上 もともとVoIPは専用線と固定電話を前提につくられたものですから、各社苦労しているはずです。しかも、何を持って高品質なのかというのも議論があるところなんですよね。音声の波形をみながらチューニングしても、感覚的に気持ちのよい聞こえ方というのは別のところにあったりしますし。実際に3GやLTE環境で使ってみていただければ、カカオトークが一番安定しているはずという自負はあります。グローバルで7300万ユーザーを抱え、莫大な同時接続をさばいてきた実績のあるカカオトークならではのポイントです。
とはいえ、音声通話がこの種のサービスの主な使われ方になるかどうかはわかりません。実際にサービスをリリースしてみて、ユーザーの動向をみながら“爆速”で対応していきます!
――LINE、commともコミュニケーションを入口に、自社とパートナーサービスへの誘導や連携を図っています。カカオトークはどのような展開を行ないますか?
村上 連携はどんどん行なっています。我々の強みは日本最大のボリュームを持つヤフーIDが活用できることです。ヤフージャパン自体も、Facebookといったソーシャルアカウントとも連携していますし、先日協業を発表したグリーさんとも連携していきたいと考えています。いわばアカウントアグリゲーションを行なっているというスタンスなので、あまりそこで競合関係にあるとは捉えていません。基本的にオープンな考え方で展開しています。
朴 チャットしながらショッピングをしたり、オークションをしたり、ゲームをしたりといった具合にコミュニケーションプラットフォームになることをカカオトークは目指していきます。村上さんとも目指す姿は共有できていますので、我々も爆速で応えていきたいと考えています。
村上 “Plusカカとも”と呼んでいる公式アカウントサービスも開始し、こちらもヤフーファイナンスやまとめなど我々のサービスやパートナーとの連携を進めていきます。実店舗(約100店舗)での実証実験も行ないました。
――アカウントアグリゲーションを行う立場でもあるにもかかわらず、カカオトークと組んで自前のサービスを展開する理由とは?
村上 先ほどお話したようにスマートフォンはコミュニケーションデバイスであって、ここがすべての起点になり、もっとも利用時間が長くなる、と考えているからですね。コアとなるこの部分はやはり自分たちでしっかりとやりたいのです。
――コミュニケーション系のサービスということで、いわゆる“出会い系”問題やセキュリティへの懸念は避けてとおれません。そのあたりの対策は?
朴 アドレス帳のデータ(電話番号と登録されている名前)をアップロードするかどうかについてはiPhone版では事前に承諾を取る画面を用意しています。利用規約では出会いを目的とした利用を禁じており、非公式掲示板には閉鎖を働きかけることをすでに始めています。スパム行為を行なうアカウントは、認証に使用する電話番号でアカウントを停止するという厳しい処置で臨んでいます。
村上 その部分もヤフーの強みが活きる場面だと考えています。古くから大規模サービスを手がけ、運営のノウハウも持っているからです。業界全体として健全にこの領域を育てていくために、我々も努めていきます。
――最後に2013年の注目ポイントを。
朴 コミュニケーションプラットフォームとして進化していきたいと考えています。チャットしながらほかのアプリやサービスが利用できる“トークPlus”という機能で、よりチャットが楽しくなるというのもその一例です。
村上 無料を競う価格競争も、機能面での比較もどこかでひと段落するはずです。われわれとしては「安心で便利で楽しい、しかも無料」という価値を極めていきたいと考えています。週アスPlusの読者の方によろこんでもらえるような便利機能をどんどん出していきますので、期待してください!
(※本インタビューは2012年12月に実施し、週刊アスキー2013年1/29増刊号(12月17日発売)に掲載されたものを再編集したものです。サービス内容、名称の変更など最新情報を加筆修正して掲載しております)
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