早朝、仕事を終えた妻を迎えに勤務先へ行くと、毎度のことながら妻の目が真っ赤に腫れていた。 帰り道の車中で半泣きになりながら話す妻の今日の出来事に、これまた毎度のことながら僕は言葉を失った。 登場する人物が全員が余りにすばらしく道徳的なもので感極まって言葉を失ったのだ。 深夜のファミレス。 働いているのは30代の女性2人のみという実に道徳的な勤務実態。 いわゆる2オペ体制であり、某牛丼チェーン店に比べて何て優良で常識的なのだろう。 そこに道徳的な4人組の若者がくわえタバコで来店してきて、禁煙席で喫煙するというのはご愛嬌。 何を注文するわけでもなく、テーブルに自前のコンビニ弁当を広げて食べ始めるという行為に新しい日本の夜明けを感じずにはいられない。 その新しい夜明けに気づかぬ不見識な妻は非常識にも「申し訳ございませんが、当店ではお持ち込みは遠慮させていただいている」という旨を平成の志士たる若者たちに伝える愚挙に出た。 当然のことながら、若者たちは憤怒の情に堪え兼ねぬといった様子で大声を張り上げ威圧する。 昨今の男子は草食系などと呼ばれておるが、なんのなんの見上げた日本男児はこのように増殖しているのである。 勇しき日本男児たちが女性店員(僕の妻)に今にも殴りかからんとする暴力的狂気をいよいよ漲らせていたというのは、我が邦の将来への不安を取り除かせてくれるに余りある心強さだ。 それでもどうにか、コンビニ弁当をしまっていただき、オーダーをとらせていただくと、「俺、ラーメン」「じゃあ俺、ラーメン大盛り」などとメニュー表には存在しない品物を口々に言い、へらへら笑いを浮かべて爆笑集落を作り上げるとは、なんともウィットに富んだユーモア。 笑いのセンスまで高いのが現代の志士たちの特徴だ。 その高度なお笑いテクニックを褒め称えもせず、我が妻はまたしも枕詞に「まことに申し訳ございませんが」と付けて、メニューに無いことを告げると、若者らは激昂してしまわれ、「あぁ! ねぇだぁ?」「ふざけんなよ!」などと言い、罵詈雑言を吐き散らかし始めたというのだから、自分の正義に猪突猛進し、激しい言論を武器とする志士として立派であり、是非とも彼らには国会議員になっていただきたいと思うのは僕だけではない筈だ。 この若者たちの他にも男性客は数人いたそうだが、みなまるで貝のように黙り、借りてきた猫のようにおとなしく飯を食い、スマホを眺めて無関心を決め込むという常識的な態度であったというから万雷の拍手を贈ろうではないか。 罵声やまぬ店内に業を煮やした妻は不遜にも帰っていただこうとしたが、「帰らねぇよ」と威風堂々と突っぱねられたので、最後通牒として「これ以上続けるようでしたら警察を呼びます」と告げたところ、「呼んでみろや」と志士の鑑のような返答。 日本男児に後退撤退はありえぬという道徳である。 その後、警察権力の横暴で彼らは店を出たが、腹いせに持っていたコンビニ弁当を店の前にぶちまけるという道徳を忘れないのはさすがである。 愚かなる妻は恐怖を感じたので被害届を申請したいと警官に言ったが、「殺すとか火をつけるとか言われたの? そうじゃなきゃそんなの出せないよ」と苦笑しながら軽くあしらう警官の道徳に僕は抱きしめてキスを捧げたい。 非常識で不道徳な人の被害者意識を掬い上げていたら、世の中が窮屈になっていけねぇや。 そんな妻の話を車中で聞いていた僕は何故だかとっても心がどんよりしてしまい、道徳天国日本の住みやすさを改めて実感した。 長々と妻の体験談などを書いてしまいまことに申し訳ございません。 道徳について考える一助にしていただけたら幸甚でございます。
常識を見失い、堕落し劣化した日本の言論状況に闘いを挑む!『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりのブログマガジン。小林よしのりが注目する時事問題を通じて、誰も考えつかない視点から物事の本質に斬り込む「ゴーマニズム宣言」と作家・泉美木蘭さんが圧倒的な分析力と調査能力を駆使する「泉美木蘭のトンデモ見聞録」で、マスメディアが決して報じない真実が見えてくる! さらには『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成させる大喜利企画「しゃべらせてクリ!」、硬軟問わず疑問・質問に答える「Q&Aコーナー」と読者参加企画も充実。毎週読み応え十分でお届けします!
昭和28年福岡生まれ。昭和51年ギャグ漫画家としてデビュー。代表作に『東大一直線』『おぼっちゃまくん』など多数。『ゴーマニズム宣言』では『戦争論』『天皇論』『コロナ論』等で話題を巻き起こし、日本人の常識を問い続ける。言論イベント「ゴー宣道場」主宰。現在は「週刊SPA!」で『ゴーマニズム宣言』連載、「FLASH」で『よしりん辻説法』を月1連載。他に「週刊エコノミスト」で巻頭言【闘論席】を月1担当。
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早朝、仕事を終えた妻を迎えに勤務先へ行くと、毎度のことながら妻の目が真っ赤に腫れていた。
帰り道の車中で半泣きになりながら話す妻の今日の出来事に、これまた毎度のことながら僕は言葉を失った。
登場する人物が全員が余りにすばらしく道徳的なもので感極まって言葉を失ったのだ。
深夜のファミレス。
働いているのは30代の女性2人のみという実に道徳的な勤務実態。
いわゆる2オペ体制であり、某牛丼チェーン店に比べて何て優良で常識的なのだろう。
そこに道徳的な4人組の若者がくわえタバコで来店してきて、禁煙席で喫煙するというのはご愛嬌。
何を注文するわけでもなく、テーブルに自前のコンビニ弁当を広げて食べ始めるという行為に新しい日本の夜明けを感じずにはいられない。
その新しい夜明けに気づかぬ不見識な妻は非常識にも「申し訳ございませんが、当店ではお持ち込みは遠慮させていただいている」という旨を平成の志士たる若者たちに伝える愚挙に出た。
当然のことながら、若者たちは憤怒の情に堪え兼ねぬといった様子で大声を張り上げ威圧する。
昨今の男子は草食系などと呼ばれておるが、なんのなんの見上げた日本男児はこのように増殖しているのである。
勇しき日本男児たちが女性店員(僕の妻)に今にも殴りかからんとする暴力的狂気をいよいよ漲らせていたというのは、我が邦の将来への不安を取り除かせてくれるに余りある心強さだ。
それでもどうにか、コンビニ弁当をしまっていただき、オーダーをとらせていただくと、「俺、ラーメン」「じゃあ俺、ラーメン大盛り」などとメニュー表には存在しない品物を口々に言い、へらへら笑いを浮かべて爆笑集落を作り上げるとは、なんともウィットに富んだユーモア。
笑いのセンスまで高いのが現代の志士たちの特徴だ。
その高度なお笑いテクニックを褒め称えもせず、我が妻はまたしも枕詞に「まことに申し訳ございませんが」と付けて、メニューに無いことを告げると、若者らは激昂してしまわれ、「あぁ! ねぇだぁ?」「ふざけんなよ!」などと言い、罵詈雑言を吐き散らかし始めたというのだから、自分の正義に猪突猛進し、激しい言論を武器とする志士として立派であり、是非とも彼らには国会議員になっていただきたいと思うのは僕だけではない筈だ。
この若者たちの他にも男性客は数人いたそうだが、みなまるで貝のように黙り、借りてきた猫のようにおとなしく飯を食い、スマホを眺めて無関心を決め込むという常識的な態度であったというから万雷の拍手を贈ろうではないか。
罵声やまぬ店内に業を煮やした妻は不遜にも帰っていただこうとしたが、「帰らねぇよ」と威風堂々と突っぱねられたので、最後通牒として「これ以上続けるようでしたら警察を呼びます」と告げたところ、「呼んでみろや」と志士の鑑のような返答。
日本男児に後退撤退はありえぬという道徳である。
その後、警察権力の横暴で彼らは店を出たが、腹いせに持っていたコンビニ弁当を店の前にぶちまけるという道徳を忘れないのはさすがである。
愚かなる妻は恐怖を感じたので被害届を申請したいと警官に言ったが、「殺すとか火をつけるとか言われたの? そうじゃなきゃそんなの出せないよ」と苦笑しながら軽くあしらう警官の道徳に僕は抱きしめてキスを捧げたい。
非常識で不道徳な人の被害者意識を掬い上げていたら、世の中が窮屈になっていけねぇや。
そんな妻の話を車中で聞いていた僕は何故だかとっても心がどんよりしてしまい、道徳天国日本の住みやすさを改めて実感した。
長々と妻の体験談などを書いてしまいまことに申し訳ございません。
道徳について考える一助にしていただけたら幸甚でございます。