突然ですが、書評を2つブッ込ませていただきます。 ・「税金を払わない巨大企業」(富岡幸雄・文春新書) 日本は法人税率が高いと、ニュースなどでよく耳にしますが本当でしょうか? 国税の法人税と地方税の法人住民税・法人事業税の合計がいわゆる法人税で、それは「法人税=課税所得×税率」という計算式で表されます。東京においては復興特別法人税が終了してからは税率35.64%になっていますが、これをイギリスや韓国並みに20%代に下げろ、そうでないと国際競争力が落ちる、資本が海外へ逃げるぞ、というのが経団連などの主張です。 確かに税率が下がれば企業の体力が保持されて有利でしょう。しかし、上記の式において税率以外のファクターである課税所得はどうでしょうか。実はグローバル展開する大企業においては、日本政府に対して課税所得を低く申告するための幾つもの避税テクニックが存在しています。 まず海外に置かれた日本企業の海外子会社が納税するのは、外資誘致のために税率を低く抑えられている当該地です。そして子会社の筆頭株主は日本にある持株会社(HD)=本社ですが、子会社が稼いだカネの配当がグループ本社に入っても課税所得には算入されません。つまり日本政府に払う税額を極めて低く抑えることができるのです。さらに海外で儲けたカネも、より税率の低い国や地域へ所得移転すればグループ全体の非課税の所得が増えます。ケイマン諸島や香港などのタックスヘイブンがそういう地域です。 このような避税テクニックを用いて実効税負担率を抑えた結果、グローバル企業は業績が良くても法人税をほとんど払っていないという状況が生まれます。三井住友フィナンシャルグループ:0.002%、ソフトバンク:0.006%、ファーストリテイリング(ユニクロ):6.92%…といった具合です。純利益に対して本来35.64%(東京)かかるはずの税金をここまで抑えられるのがグローバル企業なのです。実際の税率がこれほど下がっているのに、さらに下げろという経団連などの言い分は、低税率で外資を誘致したいTPP推進派や米国の代理人の発言だと思って間違いありません。この法人減税による税収の穴埋めは消費増税や社会補償費カットでなされており、つまり庶民への増税です。 こうして叩き出した利益も社員の給与に加算して支払うならまだ許せますが、非正規雇用ばかりを増やして人件費を低く抑え、その多くを株主(国内外の資産家)への配当に回しています。正規雇用が増えて社員の給与も上れば、消費に回るカネが増えるため、内需が伸びて経済成長も起こり得ますが、国際競争で常に勝ち続けねばならないグローバリズムの時代にそういうトリクルダウンはありません。ピケティの言う、r(資本収益率)>g(経済成長率)は正しいのです。 安倍政権の株高政策は、庶民が払った年金積立金さえも注ぎ込んで為されていますが、株式を持ち合っている国内外の富裕層のための政策です。そして数千万~1億ほどの預貯金を持つ日本の団塊小金持ちが株高の風に煽られて投資を始めた頃、ウォール街の投資家はパッと売り抜けて全部かっさらっていくことでしょう。 無国籍な非日本人と化したグローバル企業の上層部や富裕層らの手口を知っておくために、この著作は読んで損は無いでしょう。 ・「沈みゆく大国アメリカ」(堤未果・集英社新書) 国民皆保険制度(公的医療保険)の無い米国の医療・保険制度においては、高価な民間医療保険に入っていなければ病気一つするだけで破産するとよく言われてきました。オバマ大統領の民主党政権になってから、これまで存在しなかった皆保険制度がオバマケアとしてつくられました。これは民間医療保険に入れない貧困層や、既に重篤な疾患を抱えているため保険に入れないという人々にも、等しく医療サービスを受けられるようにという理想の下につくられた制度です。では、これによってどのような変化が起こったのでしょうか。 そもそも米国では医療も保険も民間の営利企業が行っており、保険会社は支払う保険料をできるだけ低く抑えようとするため、かかりつけ医の医療行為にも口出しします。つまり、医師の治療のせいで患者の医療費が不当に高くなったと判断した場合、医師に報酬を支払わないという事態も当然あり得るわけです。日本のように医療行為が医師の判断に任されていないのです。患者のため手厚い医療を行おうとすれば報酬は無く、かといって患者に不利益な医療を行えば医療訴訟専門の弁護士に患者の遺族が唆され、訴訟を起こされます。米国で医師の自殺率が高いのはこのような余りにも不遇な境遇のためです。 ところで、米国には貧困層に最低限の食料を配給するフードスタンプという制度がありますが、これはウォルマートをはじめとする米国の大手小売り企業が、国のカネで貧困層に食料をばら撒くというものです。オバマケアとは、このフードスタンプにおける食料の代わりに最低限の医療行為をばら撒くものであり、保険会社はこれまで保険に入れなかった人にも国のカネで医療保険を提供し、病院グループ企業は国のカネで医療行為を提供するため彼らに損は無いわけです。しかし医師が報酬を請求する際には、オバマケアにおいても同様の厳しい審査があり、その結果次第では無報酬となります。 また、これまで民間医療保険に入れなかった下流の人々は、全員加入が原則の公的保険・オバマケアに入らなければ逆に罰金が科せられることになりました。結局オバマケアによって中流以下がより一層の貧困化し、医師の自殺率はさらに上昇しました。逆に、保険企業・大手病院グループ企業・製薬企業・医療器メーカーの株価は上昇し、ウォール街の投資家の利益も拡大しました。著者は、このような医療における動きを、石油・農業・食・教育・金融の領域を蝕んできた1%の超・富裕層たちによる国家解体ゲームの最終章だと捉えています。 また、彼らの次のターゲットは日本だと警鐘を鳴らしています。TPP参加で混合診療が解禁されれば日本の公的医療保険は崩壊しないまでも形骸化し、代わりに外資の民間医療保険が日本の保険市場を席巻するでしょう。病院や介護施設も営利企業となれば、外国人株主や非日本人と化した富裕層株主は患者へのサービスより配当金を要求するはずです。 なお、この著書は「沈みゆく大国アメリカ・逃げ切れ日本編」へ続くそうです。TPP発効後の日本がどうなるのか、未来予測とその対策を立てるためにも、この前後編は読んでおくべきだと思われます。 非日本人は日本中に溢れている na85
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突然ですが、書評を2つブッ込ませていただきます。
・「税金を払わない巨大企業」(富岡幸雄・文春新書)
日本は法人税率が高いと、ニュースなどでよく耳にしますが本当でしょうか?
国税の法人税と地方税の法人住民税・法人事業税の合計がいわゆる法人税で、それは「法人税=課税所得×税率」という計算式で表されます。東京においては復興特別法人税が終了してからは税率35.64%になっていますが、これをイギリスや韓国並みに20%代に下げろ、そうでないと国際競争力が落ちる、資本が海外へ逃げるぞ、というのが経団連などの主張です。
確かに税率が下がれば企業の体力が保持されて有利でしょう。しかし、上記の式において税率以外のファクターである課税所得はどうでしょうか。実はグローバル展開する大企業においては、日本政府に対して課税所得を低く申告するための幾つもの避税テクニックが存在しています。
まず海外に置かれた日本企業の海外子会社が納税するのは、外資誘致のために税率を低く抑えられている当該地です。そして子会社の筆頭株主は日本にある持株会社(HD)=本社ですが、子会社が稼いだカネの配当がグループ本社に入っても課税所得には算入されません。つまり日本政府に払う税額を極めて低く抑えることができるのです。さらに海外で儲けたカネも、より税率の低い国や地域へ所得移転すればグループ全体の非課税の所得が増えます。ケイマン諸島や香港などのタックスヘイブンがそういう地域です。
このような避税テクニックを用いて実効税負担率を抑えた結果、グローバル企業は業績が良くても法人税をほとんど払っていないという状況が生まれます。三井住友フィナンシャルグループ:0.002%、ソフトバンク:0.006%、ファーストリテイリング(ユニクロ):6.92%…といった具合です。純利益に対して本来35.64%(東京)かかるはずの税金をここまで抑えられるのがグローバル企業なのです。実際の税率がこれほど下がっているのに、さらに下げろという経団連などの言い分は、低税率で外資を誘致したいTPP推進派や米国の代理人の発言だと思って間違いありません。この法人減税による税収の穴埋めは消費増税や社会補償費カットでなされており、つまり庶民への増税です。
こうして叩き出した利益も社員の給与に加算して支払うならまだ許せますが、非正規雇用ばかりを増やして人件費を低く抑え、その多くを株主(国内外の資産家)への配当に回しています。正規雇用が増えて社員の給与も上れば、消費に回るカネが増えるため、内需が伸びて経済成長も起こり得ますが、国際競争で常に勝ち続けねばならないグローバリズムの時代にそういうトリクルダウンはありません。ピケティの言う、r(資本収益率)>g(経済成長率)は正しいのです。
安倍政権の株高政策は、庶民が払った年金積立金さえも注ぎ込んで為されていますが、株式を持ち合っている国内外の富裕層のための政策です。そして数千万~1億ほどの預貯金を持つ日本の団塊小金持ちが株高の風に煽られて投資を始めた頃、ウォール街の投資家はパッと売り抜けて全部かっさらっていくことでしょう。
無国籍な非日本人と化したグローバル企業の上層部や富裕層らの手口を知っておくために、この著作は読んで損は無いでしょう。
・「沈みゆく大国アメリカ」(堤未果・集英社新書)
国民皆保険制度(公的医療保険)の無い米国の医療・保険制度においては、高価な民間医療保険に入っていなければ病気一つするだけで破産するとよく言われてきました。オバマ大統領の民主党政権になってから、これまで存在しなかった皆保険制度がオバマケアとしてつくられました。これは民間医療保険に入れない貧困層や、既に重篤な疾患を抱えているため保険に入れないという人々にも、等しく医療サービスを受けられるようにという理想の下につくられた制度です。では、これによってどのような変化が起こったのでしょうか。
そもそも米国では医療も保険も民間の営利企業が行っており、保険会社は支払う保険料をできるだけ低く抑えようとするため、かかりつけ医の医療行為にも口出しします。つまり、医師の治療のせいで患者の医療費が不当に高くなったと判断した場合、医師に報酬を支払わないという事態も当然あり得るわけです。日本のように医療行為が医師の判断に任されていないのです。患者のため手厚い医療を行おうとすれば報酬は無く、かといって患者に不利益な医療を行えば医療訴訟専門の弁護士に患者の遺族が唆され、訴訟を起こされます。米国で医師の自殺率が高いのはこのような余りにも不遇な境遇のためです。
ところで、米国には貧困層に最低限の食料を配給するフードスタンプという制度がありますが、これはウォルマートをはじめとする米国の大手小売り企業が、国のカネで貧困層に食料をばら撒くというものです。オバマケアとは、このフードスタンプにおける食料の代わりに最低限の医療行為をばら撒くものであり、保険会社はこれまで保険に入れなかった人にも国のカネで医療保険を提供し、病院グループ企業は国のカネで医療行為を提供するため彼らに損は無いわけです。しかし医師が報酬を請求する際には、オバマケアにおいても同様の厳しい審査があり、その結果次第では無報酬となります。
また、これまで民間医療保険に入れなかった下流の人々は、全員加入が原則の公的保険・オバマケアに入らなければ逆に罰金が科せられることになりました。結局オバマケアによって中流以下がより一層の貧困化し、医師の自殺率はさらに上昇しました。逆に、保険企業・大手病院グループ企業・製薬企業・医療器メーカーの株価は上昇し、ウォール街の投資家の利益も拡大しました。著者は、このような医療における動きを、石油・農業・食・教育・金融の領域を蝕んできた1%の超・富裕層たちによる国家解体ゲームの最終章だと捉えています。
また、彼らの次のターゲットは日本だと警鐘を鳴らしています。TPP参加で混合診療が解禁されれば日本の公的医療保険は崩壊しないまでも形骸化し、代わりに外資の民間医療保険が日本の保険市場を席巻するでしょう。病院や介護施設も営利企業となれば、外国人株主や非日本人と化した富裕層株主は患者へのサービスより配当金を要求するはずです。
なお、この著書は「沈みゆく大国アメリカ・逃げ切れ日本編」へ続くそうです。TPP発効後の日本がどうなるのか、未来予測とその対策を立てるためにも、この前後編は読んでおくべきだと思われます。
非日本人は日本中に溢れている na85