田畑 佑樹 のコメント

 故・福田和也氏について全く知らない不勉強の身ゆえ、「シェイクスピアの翻訳者だっけ? それとも15年くらい前の首相?」と、完全なアイス状態で読み終えることとなりました。共通の趣味を持つ知人との会話でさえ「同じ対象の有名人について話していたと思っていたら、互いに話が全然通じていなかった」という事例が起こりがちな現在において、「知らないものに関する、こちらが知らないままの述懐」の受け手になることができる菊地さんのテキストは質的にとても貴重です。
 本文末で述べておられた「悲しさ」は、菊地さんのお仕事(音楽)の内容については順当な無理解によって友愛を発生させていた故・福田氏が、同時に菊地さん御自身と同じ「可愛げ」の共通項を持っていたことにより、接近も遠望もできない他者のまま突然「死」により突破されたことで発生した何かなのかな、と相変わらずアイスを掘る手つきのまま考えています。

『天使乃恥部』サブスクリプションサービスを介しての配信開始に祝賀の念を述べさせていただきます。自分はFacebookもXも見なくなったので、数日前に公開されたライナーテキストがサブスクリプション配信タイミングに合わせてのものだとはつゆ知らず(笑)、周囲のファンの皆さんの興奮ぶりを介して数日遅れで知ることとなりました。このコメントはまさに『天使乃恥部』の再生ボタンを押す直前に書いています。
 自分が使っている Apple music では24ビット/96 kHz ALAC 形式でのロスレス配信でしたので、アルバムフルパッケージ版が届いたら家では可能な限り良いオーディオ環境での/出先ではサブスクリプションでの聴取をさせていただきます。と書いていて気づきましたが、「無圧縮音源データを購入して・iPod用に圧縮して・iTunesと同期して外に持ち出す」というジョブス健在期あたりまでのデジタルオーディオ用ルーチンはもう完全に過去のものとなりましたね。CDは夢グループによるルネサンス(←これに関して私は菊地さんによる分析を読むまで全く知りませんでした)もあり今後も生き延びるでしょうが、それよりも早くiPod(有線接続)的な音楽の聴き方が過去のものになってしまった。というのは、自分にとって大きな衝撃です。iPod(有線接続)よりもCDのほうがしぶとく生きるとは。「過去に想像されたものとは全く別の未来=現在」のありさまは、実際に生きてみなければ全く解りませんね。
(そういえば、『ベイビー・ドライバー』でiPodやカセットは出てきてもCDは全く出てきませんでしたね。あれはもしかするといかにも英国人らしい、「既に明らかな過去の歴史に属した物しか出さない」という博物館マナーで20世紀の文化を扱った映画だったのかもしれません。これを同時期のジェンキンス『ムーンライト』──場面演出での重要な小道具としてCDジュークボックスが用いられていた──と比較すると、あの時点での英国白人と米国黒人の音楽メディアを介したノスタルジアのありかたから意味ある差異を読み取ることができるのかもしれません。みたいなことをいきなり思いつきました。)

 実は、N/Kでない菊地成孔さんの新譜を聴くことになるのは『天使乃恥部』が初めてです。ジャズが葬儀にまつわる音楽であることを忘れず、それを聴く自分が誰なのか、また現在なのがいつなのか・いつかなのかさえ忘れることができればと思います。繰り返しになりますが、御新譜がひとまずデジタルで世にお目見えしたことを慶びとともに祝賀申し上げます。香水付フルパッケージ版の到着も心より楽しみにしております。

No.1 2週間前

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