>>5 KAZU様 基礎医学研究者でございます。いつもコメント、興味深く見させていただいております。さて、今回、医学生物学系の研究者の立場から、少しコメントさせていただきました。 >先生がおっしゃっているRNAはゲノムRNAのことで、メッセンジャーRNAとは別物で>すよ。なのでメッセンジャーRNAが逆転写してDNAに組み込まれることは現状、ほぼな>いと考えてよいと思います。 →確かに、自分も通常状態では細胞にはセントラルドグマ(DNA→RNA→タンパク質)があるので、基本的にmRNAが逆転写されて、さらにそのDNAが細胞のゲノムに挿入される(レトロトランスポジション)が起こるということは、ほぼないと思っておりました(これは、KAZUさんも同意してくれると思うのですが、もしもこの反応が頻繁に起こるようなことがあると、宿主細胞のmRNAでもこの反応が起こる可能性があり、ゲノム中でDNAの挿入が起こり続け、細胞が不安的な状態になってしまうと思われるからであります) ただ、長い進化時間スケールで見ますと(例えば、哺乳類が誕生してから現在までの約1億年を想定)、よしりん先生の「コロナ論2」で書かれているような“ウイルスによる水平進化”の証拠はゲノムに刻印されており、実際ヒトゲノム配列の40%くらいにウイルス起源と思われる配列が見いだされています。これらの配列のほとんどはすでに逆転写や転移を起こす領域が壊れているので不活性化状態ですが、その中でもLINE1と言われる配列は上記の構造は保たれています(しかし、定常状態では活性は抑えられているだろう、というのがこれまでの理解です)。 ところが、最近になり、例えば、炎症、老化、がん、あるいはウイルス感染(リンパ球性脈絡髄膜炎というRNAウイルス(LCMV))などが起きると、通常はほとんど活性の見られないヒトのLINE1が活性化し、mRNAあるいはRNAウイルスの逆転写が起こっているという知見が、それなりの論文(NatureやNature姉妹紙などに)に報告されてきました。 そして、詳細は省きますが、今年に入ってPNASという研究業界ではオーサライズされている論文に、それなりにまともな研究をしているアメリカの研究チームから、「SARS-COV2のウイルスRNAがヒトの細胞に逆転写された後に挿入され、さらにその状態でRNAを発現する」という、かなり驚きの報告がでました(PNAS 2021 Vol. 118 No. 21 e2105968118)。私は感染症の専門家ではありませんが、ある理由があってこの論文をしっかり読んだのですが、少なくともデータを見る限りでは「とんでも話」ではなさそうです。1.少なくとも、LINE1を外から導入し強制的に発現させると、コロナウイルスRNAが逆転写され、細胞のゲノムに挿入されること、2.COVID-19に罹患したヨーロッパ系の重症患者の細胞に実際に逆転写されたRNAウイルス(DNAに変換されたウイルスゲノム)が挿入され、しかもさらにそこからRNAとしてウイルスゲノムが検出されていることを、この論文では報告されております。 さて、前置きが長くなりました。実はKAZU様にコメントしたかったポイントはここからで、“もしもヒトの細胞中で上記のLINE1が活性化するような状態が生まれるのならば、RNAウイルスであろうと、外から導入したmRNAであろうと、逆転写され、DNAの形で宿主細胞のゲノムに挿入されるというレトロトランスポジションは起こる可能性はあり、両者は分けられないのではないか?”ということでございます(mRNAの場合は発現能力はないはずなので、宿主細胞の遺伝子に影響を与える場所に挿入されなければ影響は少ないとは思うのですが) ただ、私は感染症やワクチンのことは門外漢なので、実際にこの考察が正しいのかどうかは、わかりません。なので、次回のゴーセン道場で、井上通達先生に、「コロナのRNAウイルスがヒトのゲノムに逆転写されて挿入されたという報告があるようですが、RNAワクチンの材料であるmRNAがヒト細胞の因子で逆転写され、RNAウイルスと同様のふるまいをする可能性があるのかどうか?」を、誰かに質問していただけないでしょうか、と思う次第であります(すみません、私自身が当日会場に参加できないのもので)。 以上でございますが、いかがでございましょうか(長くなり、すみません(m_ _m))?
チャンネルに入会
フォロー
小林よしのりチャンネル
(ID:18275636)
>>5
KAZU様
基礎医学研究者でございます。いつもコメント、興味深く見させていただいております。さて、今回、医学生物学系の研究者の立場から、少しコメントさせていただきました。
>先生がおっしゃっているRNAはゲノムRNAのことで、メッセンジャーRNAとは別物で>すよ。なのでメッセンジャーRNAが逆転写してDNAに組み込まれることは現状、ほぼな>いと考えてよいと思います。
→確かに、自分も通常状態では細胞にはセントラルドグマ(DNA→RNA→タンパク質)があるので、基本的にmRNAが逆転写されて、さらにそのDNAが細胞のゲノムに挿入される(レトロトランスポジション)が起こるということは、ほぼないと思っておりました(これは、KAZUさんも同意してくれると思うのですが、もしもこの反応が頻繁に起こるようなことがあると、宿主細胞のmRNAでもこの反応が起こる可能性があり、ゲノム中でDNAの挿入が起こり続け、細胞が不安的な状態になってしまうと思われるからであります)
ただ、長い進化時間スケールで見ますと(例えば、哺乳類が誕生してから現在までの約1億年を想定)、よしりん先生の「コロナ論2」で書かれているような“ウイルスによる水平進化”の証拠はゲノムに刻印されており、実際ヒトゲノム配列の40%くらいにウイルス起源と思われる配列が見いだされています。これらの配列のほとんどはすでに逆転写や転移を起こす領域が壊れているので不活性化状態ですが、その中でもLINE1と言われる配列は上記の構造は保たれています(しかし、定常状態では活性は抑えられているだろう、というのがこれまでの理解です)。
ところが、最近になり、例えば、炎症、老化、がん、あるいはウイルス感染(リンパ球性脈絡髄膜炎というRNAウイルス(LCMV))などが起きると、通常はほとんど活性の見られないヒトのLINE1が活性化し、mRNAあるいはRNAウイルスの逆転写が起こっているという知見が、それなりの論文(NatureやNature姉妹紙などに)に報告されてきました。
そして、詳細は省きますが、今年に入ってPNASという研究業界ではオーサライズされている論文に、それなりにまともな研究をしているアメリカの研究チームから、「SARS-COV2のウイルスRNAがヒトの細胞に逆転写された後に挿入され、さらにその状態でRNAを発現する」という、かなり驚きの報告がでました(PNAS 2021 Vol. 118 No. 21 e2105968118)。私は感染症の専門家ではありませんが、ある理由があってこの論文をしっかり読んだのですが、少なくともデータを見る限りでは「とんでも話」ではなさそうです。1.少なくとも、LINE1を外から導入し強制的に発現させると、コロナウイルスRNAが逆転写され、細胞のゲノムに挿入されること、2.COVID-19に罹患したヨーロッパ系の重症患者の細胞に実際に逆転写されたRNAウイルス(DNAに変換されたウイルスゲノム)が挿入され、しかもさらにそこからRNAとしてウイルスゲノムが検出されていることを、この論文では報告されております。
さて、前置きが長くなりました。実はKAZU様にコメントしたかったポイントはここからで、“もしもヒトの細胞中で上記のLINE1が活性化するような状態が生まれるのならば、RNAウイルスであろうと、外から導入したmRNAであろうと、逆転写され、DNAの形で宿主細胞のゲノムに挿入されるというレトロトランスポジションは起こる可能性はあり、両者は分けられないのではないか?”ということでございます(mRNAの場合は発現能力はないはずなので、宿主細胞の遺伝子に影響を与える場所に挿入されなければ影響は少ないとは思うのですが)
ただ、私は感染症やワクチンのことは門外漢なので、実際にこの考察が正しいのかどうかは、わかりません。なので、次回のゴーセン道場で、井上通達先生に、「コロナのRNAウイルスがヒトのゲノムに逆転写されて挿入されたという報告があるようですが、RNAワクチンの材料であるmRNAがヒト細胞の因子で逆転写され、RNAウイルスと同様のふるまいをする可能性があるのかどうか?」を、誰かに質問していただけないでしょうか、と思う次第であります(すみません、私自身が当日会場に参加できないのもので)。
以上でございますが、いかがでございましょうか(長くなり、すみません(m_ _m))?