虎山 のコメント

 僕は井上陽水さんの熱心なリスナーではないのですが(それでも有名な曲ばかりですが)聴くたびに、歌詞の意味の分からなさと同時に歌詞が最初から最後まで意味が通るようになっていることが共存していることに「うわぁすごいなぁ」と感動します。それがいわゆる天才性によるものなのか、ずば抜けたインテイリジェンスによるものなのか毎回判断がつかず、菊地さんがお書きになった素晴らしい分析の下書きを拝読しているあいだもそれが揺れるも、読み終わっていまは後者のほうに落ちついています。井上陽水が地下のヒーローではなく、オーバーグランドのトップランナーであること、この人を選んだことに日本のポップス(界)の力を感じます。それにしてもポップなものに対する素晴らしい分析は読んでいて楽しいですね。最近僕は本を取り寄せては読んでおりまして、次は川勝正幸さんの『21世紀のポップ中毒者』を読もうかと思っております。菊地さんのご著書はいまは『レクイエムの名手』をゆっくりと読んでいます。

 反戦に潜む好戦性は仰る通りだと思います。菊地さんがお書きになられたことからスライド&ツイストするのですが、ヴィデオゲームに『コール・オブ・デューティー』シリーズってのがありまして(略称cod 製作はアメリカのゲーム会社)、これは一人称視点のゲーム……映画でいうとpovであり、兵士を主人公にした戦争もののゲームでして、プレイヤーがそういう主人公を操って敵国の兵士やらテロリストを銃で倒していくゲームです。第一次大戦からヴェトナムさらに中東や対テロリストものの戦争映画に影響を受けたゲームであり、シリーズ累計で2億5千万本売れたり、ヴォイスアクターにゲイリー・オールドマンやエド・ハリスやサム・ワーシントやアイスキューブを起用したり、cgで再現されたケヴィン・スペイシーが登場します。数年前の一時期、映画でやたらpovものが作られたのもこのゲームの影響が大きいですし、向こうの映画で、パソコンやテレビに向かって悪態をつくナードや若い不良がゲームをやっている場面で彼らがやっているのはたいていこのゲームです。

 でも爆発的に売れたのはその4作目(2007年販売)からでして、それ以前の作品の物語の舞台はノルマンディー上陸とかマジノ線とか、スターリングラードとか軍事/歴史オタクが好きなとこでやっていたんですが、4作目の題名を『コール・オブ・デューティー4 モダンウォーフェア』なんて題して近代戦に舵を切って、物語の舞台を米軍と英軍による中東戦争や対テロリスト戦にしたんです(『アメリカンスナイパー』なんて映画もありましたが、あれもこのゲームの影響下にあります。ああいう雰囲気のゲームです。ぎりぎりで『ハートロッカー』には成れない感じで。それと2012年に公開された『ネイビーシールズ』という本物の特殊部隊が役者をしている超好戦的なpov映画があるのですが、あれはこのゲームの実写化みたいなものです)。

 それでこのめちゃくちゃ売れた4作目(たしか1千5百万本とか売れたはずです。僕もここからこの作品を知りました)から、「戦争って怖いなぁ、いやだなぁ」とプレイヤーに思わす演出を必ず入れるようになったんです。核爆弾の爆発(によりプレイヤーがそれまで操作していた主人公の一人が物語のうえで死ぬ)とか、航空機による対人の砲撃の無慈悲さとか、ロシアの空港で銃撃テロが起こるとか(プレイヤーに銃撃犯を操作させる)、毒ガスで一般の家族が死ぬとか、自爆テロで人間爆弾が突っ込んでくるとか、アメリカ本土が戦争(対ロシア)の舞台となってショッピングモールや閑静な住宅街さらにホワイトハウスまで蹂躙されるとか……それにゲームですから、現代戦のノルマンディー上陸作戦みたいなところで敵兵に撃たれたり砲撃で飛ばされて何度もゲームオーバーになるんです。ゲーム機とcg技術の発達によりどれもリアルに描写されていて、そしてプレイヤーは「戦争っていやだなぁ、怖いなぁ」となるんです(”戦争を知らされた”というやつですね)。

 なのでこのゲーム自体に反戦的な作用があるにはあるのですが、むしろそういう反戦的な演出があるからこそプレイヤーは気兼ねなく戦争をゲームとして遊べるようになっていることに気が付いたことがありまして、そういう構造があるからこそ爆発的にこの作品が売れたことに、これ考えたやつは悪い奴だなぁ(笑)と思いました。

 菊地さんがヴィデオゲームを一切しない、ということは存じ上げているのにも関わらずこの場に書いてしまい申し訳ないのですが、反戦の要素がむしろ戦争を魅力的に見せる、反戦の要素があるからこそ戦争を娯楽として扱える、そして娯楽は楽しい、ことには十分注意しないといけないというか、乗せられてしまうものなのだろうなぁと僕が思った出来事でして、今回の菊地さんのエセーとリンクしました。また僕は最近ノーマン・メイラーの短編集も読んでいまして、それとも繋がりました。

 大林さんの尾道三部作は見たことがなく、ちょろっと検索してみたのですが、女子学生への、それも漂白された概念的なものではない、生もの(レア)に対するいわゆるフェテッシュが一瞬見ただけでつまっていて、うわぁとなりました(笑)『君の名は。』の悶々としたフェティッシュとの繋がりにも納得しました。

No.4 49ヶ月前

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