アルテイシアの相談室

加賀美サイ寄稿『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』書評ー毒親の呪いからの解放の先にあるのは、本来の自分を取り戻した人生

2020/03/05 19:00 投稿

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こんにちは~!

ライターの加賀美サイさんが、新刊『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』 http://urx.space/Qx6M の書評を書いてくれました。ありがとう~~!!!

サイちゃんが『初めて結婚したいと思えた』彼氏と別れた話に、私もほろりときましたよ…以下、どうぞお読みくださいませ~(全文無料で読めます)


■加賀美サイ寄稿

ありがたいことに、こちらのブロマガに何度か寄稿させて頂いているライターの加賀美サイと申します。
先日寄稿した『ボーイズ』の書評を読んで頂いた読者の皆さん、本当にありがとうございました。https://ch.nicovideo.jp/artesia59/blomaga/ar1860843

さて、もうお手に取った方も多いでしょうが、アルさんの新刊『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』を早速読み「やっぱり姐さんに着いていきます…」と何十回目かわからない決意を噛み締めました。

今回は、本書を通じて毒親育ちとして参考になったことや、パートナーシップに関する悩みが尽きない26歳独身OLとして感じたことなどを書かせて頂きます。

本書には恋愛・結婚・子宮全摘出手術・社会における不平等・親との関係・親の死など様々なエピドードが収録されていますが、特に「自分事」として刺さったのは、パートナーシップと毒親の話でした。

本書に一貫して通底している大きなテーマは「毒親の呪いからの解放」です。

一言でまとめてしまいましたが、決して一言でまとめられるような話ではありません。アルさんと同じく私もですが、両親ともに非の打ち所がない毒親だと、ただ生まれただけなのに、かけられた呪いが強すぎる。

この呪いを払拭するには何らかのきっかけや呪いを解くカギが必要で、それがアルさんにとっては、夫さんとの出会いだったんですね。

これは持論ですが、毒親育ちは人生の初期段階で親から「自分」を奪われて育つので、大人になるにつれ、今まで奪われていた自分を取り戻していくように人生を歩む傾向がある、と私は考えています。

本来自分が持っていたはずのものを親に奪われて育つので、その欠けた<ピース>を集めるような旅をし、最終的にようやく本来の自分に戻れる、というイメージです。そのため成長とは、少しニュアンスが違います。

毒親育ちも多様なので、もちろん全員このような人生を歩むわけではありません。でも、アルさんは明らかにこの類の人だと思います。
その奪われた、欠けた<ピース>を取り戻すカギになったのが、夫さんだったのだと私は解釈しています。

毒親の呪いにかけられた人間は、「私はこれで大丈夫」と素直に思えるようになることが、なかなか難しい。「私はこれで大丈夫」と思えるようになるには呪いを解く必要があり、それはハードモードな幼少期や思春期を送らざるを得なかった人間にとって、本当に一筋縄ではいきません。

アルさんは、かけられた呪いを解き、自分を取り戻すためには「誰か」、つまり<伴侶>や<家族>が必要だとキチンと分かっていました。

「誰か」との出会いが毒親からの呪いを解くカギになるのは、私にも少し分かります。「誰か」との出会いは、自分自身が持つ価値観や自分の価値そのものを「自覚」できるようになり、本来の自分を取り戻すことに繋がることさえ、あります。

そういう「誰か」と<家族>になるには<妥協じゃなく、何は譲れて何は譲れないかを明確にする>という軸を立てることが必要だと、アルさんは理解していたのです。

軸を自分で作っていたからこそ、<迷彩柄のせんべい>こと夫さんと出会えたのでしょうし、その出会いから毒親の呪いを解いていけたのでしょう。決して棚からぼたもちの出来事ではなかったのだなと、本書を読みながらしみじみ思いました。

臆することなく自分の内面や、その底の底まで向き合う勇気や努力がなかったら、自分に本当に必要なものはわかりません。
後悔のない、自分を取り戻す人生を歩きたい強烈な意志と主体性がなかったら、「私はこれで大丈夫」と思えるようになる、呪いの消えた人生は掴めない。

人生におけるあらゆる価値観が定まり切らない若輩者としては、本当に勇気づけられるし、「こんな風になりたい」と心から思います。

何は譲れて、何は譲れないのか。

私的な話題に変わり恐縮ですが、4ヶ月ほど前に彼氏と別れました。このブロマガで前に書かせてもらった彼で、自身のnoteにも書きました。https://ch.nicovideo.jp/artesia59/blomaga/ar1741688

さんっざんノロけて「初めて結婚したいと思えた」「絶対に別れたくない」とまで言った手前、全身を地面に沈めたいぐらいの恥ずかしさと「そんなに簡単にいくわけはないし世間知らずの人生経験浅々小娘が何をほざきおる」と強烈なバツの悪さは未だに拭えません。

今後はあんなに簡単に「結婚したい」だの「運命の人かも」だの思うことには慎重になろう……。
と思ってはいますが、彼とのことを全否定し、なかったことのように扱うのは、あんまり自分が可哀想だと感じます。

「結婚したい」と思ったのは確かに若気の至りだし、結果として別れたものの、彼との出会いは私が私を取り戻す人生を歩む上で、必要な経験だったからです。

ただ、アルさんが繰り返し言うようにパートナーシップには<譲れない>もの、<100年の恋も冷める地雷>というものがあります。

以前、私はアルさんからパートナーに求める条件を3つに絞ろうというアドバイスを頂き、「信頼できる」ことを設定していました。まさにそこの地雷を踏まれた次第です。

別れを決めた直接的な理由は、金銭の問題でした。金の問題といえばトップクラスレベルの現実的な問題ですし、大抵の場合は一人では解決が難しい。

だからこそ、相談できる窓口に頼るとか、情報収集するとか、トラブルが影響しそうな関係者(この場合は私)には早めに情報共有して、どう対処する気なのか話し、不安を与えないようにするとか、そういうコミュニケーションも必要なはずです。

彼は、現実的な問題解決に必要な、こうした諸々の行動力に乏しく、問題を一人で抱え込んでなんとかしようとするタイプでした。「金の問題なんかカッコ悪いから好きな女には相談できないし情報共有もできない」的な思惑もあったかもしれません。

でも私からすれば、そんな重大な問題をパートナーに相談も情報共有もできず、弱さを見せられない方がよっぽどカッコ悪い。

彼の幼い金銭感覚そのものへの不信感も芽生えましたが、それ以上に、私は彼のそういう部分に「地雷」を踏まれ、もう信頼できないと思い、別れを告げました。

ただ、アルさんが夫さんと出会ったことで毒親の呪いから解放されたように、私たちは別れたものの、彼によって毒親の呪いをだいぶ解かれたとは(美化に聞こえるでしょうが)、はっきり感じています。

私は母に「お前は絶対に男と幸せになれない。絶対に男に愛されない」と小さい頃から言い聞かされて育ったので、その通りの人間だと本気で思い込んでいました。

でもそんなの嘘だと、毒親からの大きな呪いの一部をグレッチでぶん殴れた。小さい頃から抱いていた男性不信すら和らぎ、「父みたいな男ばかりじゃない」と、そんな当然のことを理解できさえした。

結果的に別れたとはいえ、一度でも「パートナー」から愛される・求められる・必要とされることを経験し、上記のようなことに気づけたのは、毒親の呪いをかけられた私にとっては、非常に大きなことでした。

皮肉な話ですが「もうこの人は私を大切にしていない」と別れを選択できたことそのものが、彼と付き合ったからこそ、以前よりは自分を肯定でき、自信がついたことの証明とすら思います。

<伴侶>や<家族>という形にはおさまらなかったものの、これも一種の「誰か」との出会いだったのかなと思う次第です。

本の内容に話を戻しましょう。夫さんとのパートナーシップと同じぐらい重要な本書のテーマは、毒親の話です。

母君の死の話も壮絶ですが、やはりこの本で一際大きな存在感を放つエピソードは、父君の死です。

私の父は暴力・暴言・ギャンブル狂い・働かない、の4拍子揃った完璧なDV野郎で、母以上にヤバい人間のため、8年前から絶縁中です。出来れば葬儀も執り行いたくない。

そんな私にとって、アルさんの父君の死〜葬式〜借金の精算方法に関する話は、本当にためになる話ばかりでした。

まず言及したい点は「この人もまた『男は仕事』という男社会が作った幻想に殺されたんだな」ということです(ちなみに父君の素行を擁護する気は一切ありません)。

うちの毒父は働かなかったので、そこは異なるものの、「男は女より上である」という支配性に侵され「男の強さ」という社会的幻想の犠牲になって家族を失った、という意味ではアルさんの父君も私の父も同じです。

いかに男社会が男性をも自滅させるのか、アルさんの父君の死はそれを存分に教えてくれました。

<毒親ポルノ>の有害性や<親子だからわかり合える>という言葉が<毒親フレンズ>を苦しめることへの指摘も、重要なトピックです。

仮に絶縁中の父と無理矢理対面させられ「感動の再会」的な絵面を望む輩が目の前に現れたら、私はきっと発狂します。

毒親育ちに対し、ためらいなく<毒親ポルノ>的価値観に基づいた言葉や行動を投げつける人は、「親子とは尊いものであってくれ」という勝手な願望や理想像を抱いているだけです。

そもそも、血縁だろうがなんだろうが、自分以外の人間は全員「他人」です。それが分かったとき、私は<親子だからわかり合える>という言葉の軽薄さや根拠のなさ、ナンセンス具合に気づきました。

毒親育ちにとって、親は自分とは違う人間、即ち「他人」であることを明確に認識するのは、自分の心を守る術です。<毒親育ちは親からいじめを受けて育った>から。

いじめてきた人間といじめられてきた人間を「親子である」という単なる戸籍上の事実を理由に、<わかり合える>ものとする考え方は、はっきり言って暴力的です。

私もこれまで「でも育ててもらったんでしょ?」「でも親なんだからあなたのことを愛してたと思うよ」的な言葉は散々投げつけられてきました。

「今は親御さんが嫌いかもしれないけど、歳を取れば親御さんの気持ちもわかるよ」と、なぜか私が説教されたこともあります。いや、子供をいじめる親の気持ちなんて、分かるようになる方がヤバいですよね?

金銭を出してもらったという意味では「養育」はされていたでしょう。でも養育される=愛情をもらっていた、ではない。

<もらってないものは返せない>というアルさんの言葉は、真理をついています。もらってないのでこちらから返す必要もない。

ただ、父君のことを許せないのと同時に、遺体を目の当たりにして<父に優しくされた記憶もあるから、やっぱり胸が痛んだ>というアルさんの気持ちもわかります。

私の父は存命中ですが、親族から「もう60歳にもなる父が、定職に就けず、日雇いの肉体労働バイトで生活をしのいでいる」という話を聞くと、複雑な感情は湧きます。

しかし、毒親ポルノ的価値観に侵食される必要はない。許せないことは許せません。

毒親育ちは<親子ガチャ>で盛大なハズレを引いたところから人生スタートです。そして歳をとるにつれ、毒親育ち経験が自分のものの捉え方や人間関係面にマイナスな影響を及ぼしていることを自覚するシーンが、嫌でも出てきます。

それでも多少の希望があるとすれば、SNSの普及によって一般人も自分の経験や考えを発信できるようになり、「毒親」の存在が認知され始めていることでしょうか。

親子関係はどの家庭も良好なのが普通で、血縁同士は皆強い絆で繋がっている、とは限らないことが少しずつ可視化され始めている気はします。

多様な家庭があることが可視化され始めていると同時に、「毒親になりたくない」からこそ育児で追い詰められていることを吐露し、助けを求める育児アカウントも目にするようになりました。

<毒親じゃなくても、親を好きでも嫌いでも、すべての親は抑圧になりうる>という一文が、本書にはあります。

これは、良好とされる親子関係を持つ友達を見ていても確かに感じることです。良好ではあっても、親のある面がその人にとっての抑圧になっていると、端から聞いていて感じるときはあります。

SNSの普及で可視化され始めたこととして、大なり小なり<人それぞれ地獄>があることを、私もここ数年で知りました。

アルさんは、毒親育ちを明かされたら、共感はできずとも頭でそういう苦しみがあることを理解してくれればいい旨を書いていますが、これは何かしらの<地獄>を抱えている人への対応に幅広く使えると思います。全く何も抱えてない人なんて、殆どいないんですよね。

話が少し逸れましたが、本書に収録されている毒親話は、毒親が死んだ後にすべきことなど、具体的に参考にできる<毒親ライフハック>も非常に多いです。

とりあえず、私は本書を読み終えて即、母にLINEで父の借金の有無を聞きました。家のローンが残っているとのことでしたが、私には請求はこないそう。でも何があるかわからないので、父が死んだらまずは弁護士に相談し、速やかに相続放棄することを胸に刻みました。

遺体と遺骨の引き取り拒否ができる件は、救いの話にすら見えました。毒親の送り方に悩む皆さんは、ぜひ学びにして頂きたいです。

そして毒親絡みの話でもやはり欠かせないのは、夫さんの存在。

夫さんは、アルさんが父君の葬儀の手配などで疲労困憊になっているときも<巨大な亀>の話を始めたり、父君が亡くなったのは<1985年に政府がプラザ合意に同意したせいだろう>と想像の斜め上をいく見解を示したりと、その独自の観点と発言で、アルさんの緊張を和らげています。

<病める時ベース>で支え合えるパートナーの存在は、毒親絡みの非常事態が起こったときに一層ありがたく感じんだろうな……と、アルさんに夫さんがいて心底良かったと思いました。

そう。毒親育ちにとって、パートナーが自分と親との関係をどのように捉えてくれるか、また
そこにどう寄り添ってくれるかは、ガチで重要です。

会社の女性が、婚約者に毒親ポルノテロを仕掛けられそうになって婚約破棄をした話を聞き<君は正しい、そんな男は別れて正解だ>と夫さんが言ったくだりを読み、パートナーとして余りの文句のつけようのなさに、全私がホロホロ泣きました。

この人と一緒にいられるかどうか? という判断材料のひとつになるぐらいには、パートナーの自分の家庭環境に対する理解度は、本当に無視できない要素です。


最後に。アルさんと夫さんとの会話は、時々おかしい(失礼)。とはいえ、その日常は至って平和です。

第三者の立場から二人の生活を読んでいると、まるで縁側で日向ぼっこをしながら、お互いに身を寄せ合っている猫同士を眺めているような、そんな温かい気持ちになります。

でも、読者にそう思わせるほどの話が書けるようになるまでに、アルさんはどれだけのことを乗り越え、毒親から奪われていたものを自らの手で取り戻していったんだろう。私はそのことにも、思いを馳せざるを得ませんでした。

本来の自分になるまでの道のりのゴールに、アルさんには「夫さんとの結婚」が必要だった。

その呪いを解くには夫さんの存在は必然だったということ、つまり「誰か」との出会いは、毒親の呪いから自分の人生を解き放つことに繋がりうるのだというメッセージを、力強い温かさのもとに、私は受け取りました。

私には、毒親の呪いからの完全な解放に「結婚」が必要なのか、それとも結婚以外の選択肢が必要なのか。

それはまだ探っている途中ですが、アルさんのように「こんな自分でも大丈夫」と思えるような人生に、一歩一歩でも近づけている手応えは、ちょっとずつ感じつつある……かも。

時に爆笑し、時にホロリと涙ぐみながらお二人の人生の欠片を読み、そんな風に思った次第です。

加賀美サイ/作家、ライター。エッセイ、(私)小説、ファッション×詩を配信。
私が読みたい「私の雑誌」をコンセプトに、性(ジェンダー)・エロ・精神障害・生きづらさ・恋愛・文学・芸術・サブカルなどをnoteで書いてます。ちなみにADHD。日々もがいています。
 
note:https://note.mu/psy_kagami
twitter:@psy_kagami
Instagram:@psykagami
mail:psykagami@gmail.com

アルテイシアの新刊『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』 http://urx.space/Qx6M
オタク格闘家と友情結婚した後も、母の変死、父の自殺、弟の失踪、借金騒動、子宮摘出と波乱だらけ。でも変人だけどタフで優しい夫のおかげで、毒親の呪いから脱出。不謹慎だけど大爆笑の人生賛歌エッセイ!!

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