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劇場版とTVアニメが同時展開中の話題のアニメ『亜人』の音楽を手掛ける菅野祐悟さんにロングインタビュー 菅野さん「自分の心臓の音や渋谷のスクランブル交差点の音を収集し、音楽のなかにちりばめました」

2016/05/24 19:45 投稿

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 決して死なない新人類「亜人」と、交通事故がきっかけで「亜人」として目覚めてしまった少年・永井圭をめぐる“バトル・サバイヴ・サスペンス”として高い人気を誇る漫画『亜人』(原作:桜井画門/「good!アフタヌーン」にて連載中/講談社刊行)。2015年に劇場版3部作とテレビシリーズの両方を展開していくことが発表され、直後、劇場版第1部「亜人 -衝動-」が公開されるやいなや、3DCGアニメとそのクオリティの高さで大きな話題を呼びました。2016年1月からはテレビシリーズの放送がはじまり、つい先日、最終回を迎え、現在は劇場版第2部「亜人 -衝突-」が公開されており、いよいよ公開も残すところあと数日となってきました。
 本作の注目点はハイクオリティな映像や豪華キャスト陣はもちろん、音楽面にも注目です。テレビドラマや映画など実写作品の楽曲を多数手掛けている菅野祐悟さんが音楽を担当しているんです。これまでアニメの劇伴をいくつか担当していますが、公開前から注目の作品であった本作の楽曲を制作するにあたって、どのような思いで、またどのようなこだわりを持って作ったのかお聞きしました。

●トレンドな音楽の方向性と『亜人』ならではの“人間らしさ”を菅野流に表現

――まずは、本作の劇伴を担当することになった経緯についてお聞かせいただけますか?

菅野さん:僕はもともと実写畑の人間で、これまで映画やドラマの劇伴を主にやってきました。そんなとき、「踊る大捜査線」シリーズの本広克行監督がアニメ『サイコパス』を制作する、ということでご一緒させていただいたのですが、その現場で音響監督の岩浪美和さんにお会いしまして、そこで岩浪さんが僕の音楽を気に入ってくださったんです。それがご縁で『ジョジョの奇妙な冒険』でも岩浪さんに推薦していただきお仕事をさせていただきました。その流れもあり、『亜人』でもご一緒させていただいた、という感じですね。

――最初に『亜人』の楽曲オーダーをいただいたとき、というのはどのような状況だったんですか?

菅野さん:テレビアニメの音楽を作るときって映像が一切ないんです。ですので、原作があるものは原作を読んだり、原作がないものに関しては絵コンテを見て作っていきます。『サイコパス』のときは原作がないものだったので、本当に手探りでしたが、『ジョジョ』や『亜人』は原作がありましたし、すでにヒットしている作品だったので、アニメーションを見るファンの方も原作ありきで見る方が多いと思いました。『亜人』がどういう作品か知ったうえでご覧になる方が多い分、期待もあるでしょうし、アニメーションのスタッフさんも原作をリスペクトして作られているので、その期待やイメージは反映させようと思いました。また、『亜人』の場合は原作がまだ続いているので、ファンの方もアニメ版ではどんな展開になっていくのかという未来に対する期待もあるはずなんです。だから原作を知っていたとしても、それ以上にワクワクする、ドキドキするような作品になるよう音楽でも新しい感動を与えられるようなものにしなくてはという意気込み、気持ちで作りました。

――作曲をしていくうえで苦労したところや他の作品と比べてこだわったところはありましたか?

菅野さん:「亜人」という新人類の特徴は「死ねない」、「死んでも生き返る」という点だと思うんです。人間は「死にたくない」、「老いたくない」という欲求や恐怖を持っていて、だからこそ医学が進歩したり、サプリが開発されたり、美容整形が発展したりするわけです。そんな人間の業、欲望の究極系が「亜人」だと思ったんです。それをどう音楽で表現するかと考えたとき、スタッフもアニメ自体も話題の原作を持つ作品ですから、最先端な音楽を作らなくてはならないなと。デジタル的な要素を入れていますが、今、最もトレンドな音楽の方向性を目指しつつ、“人間らしさ”を取り入れることにしました。例えば、僕の心臓の鼓動音を録音して音楽のなかに入れたり、渋谷のスクランブル交差点で雑踏音を録音して使用してみたり、痛みや恐怖を表現するためにギターをドリルや包丁で弾いてみたり。ここでしか表現できないものを作るためにいろいろな音を収集して曲中にちりばめてみました。また、そういう音からインスピレーションを得て作りました。

――心臓の音や雑踏音など、音を収集するというのは他の作品でもあるんですか?

菅野さん:もともとそういうことをするのが好きなんです。この前、草彅剛さんが主演のドラマ『銭の戦争』の音楽を作ったときには、ワイングラスに500円玉を落として、「チャリン」という音を録音したんです。その音を、何かが起きるきっかけの音やサビの直前で使用したんですけど、それってこのドラマでしかありえない音楽なんです。僕は「オーダーメイドでその作品にあった音楽を作りたい」と常に思っているんです。音楽で作品にひとつのカラーがつくと思いますし、街中で『亜人』の音楽が流れてきたときに、「これって『亜人』の音楽じゃない?」って走馬灯のように好きなシーンが思い浮かぶような。それくらいエネルギーがあるような音楽を作りたいという思いがあるんです。志は高いんですよ(笑)。

――ちなみに、『亜人』の音楽が完成するまでの日数はどれくらいでしたか?

菅野さん:『亜人』は2クール分の音楽を作ったので、1クール目用として40~50曲を1ヶ月半くらいかけて、2クール目用としては20曲ほどを1ヶ月くらいで作り、録音しました。

――それだけの曲を一定期間で作らなくてはならないわけです。悩んだり、行き詰まったりすることはありませんでしたか?

菅野さん:僕の場合、やみくもに作曲をしないことにしているんです。ピアノやパソコンの前で行き詰まるのが嫌なんです(苦笑)。だって、行き詰まって3日間くらい悩むくらいなら別なことをしてるほうがいいって思うんです。映画を見たり、友達や尊敬する先輩や後輩と飲みに行ったり、なんでもいいのですが、何か別のことをします。いいアイデアが浮かんだときや「作曲をしたい!」って思ったときじゃないと人に伝わる、熱のこもった音楽はできません。だから、作曲するときに自分の心のなかで思っているのは「今、やる気待ちです」って(笑)。ですので、やる気もアイデアもフルの状態にならないと作曲しないようにしています。

――すべてがフルの状態になってからピアノやパソコンと向きあうと。

菅野さん:そうです。ただ、どんな音楽にしようかということはずっと考えてはいます。

――以前、別のインタビューで「作品ごとに距離を置いて作曲をしている」というお話をされていましたが、『亜人』はどういう距離感で作曲をされたんですか?

菅野さん:キャラクターの心情に関しては距離を引いて作り、IBM(作中に登場する、亜人が操る自分の分身のような存在のこと)に関してはオンで作っています。まず、心情を表現する音楽については、視聴者の想像を利用して作っています。音楽は人の記憶をものすごく利用して作っているんですよ。例えば和のシーンで琴の音が入ると和っぽくなりますよね? それは記憶のなかに和=琴、というイメージが染みついているからです。つまり、見ている人の想像力をかきたてるような音楽が“距離を引いた”作り方です。音楽だけですべてを語るのではなく、見ている人の想像もプラスしています。でも、IBMという存在はみんなにとってはじめての体験であり、オリジナルの音楽として作るのでオン、つまり音楽だけで語れるものにしています。かといって、押し付けると情報が多すぎてしまう可能性もあります。そうしたら音楽がセリフの邪魔をしてしまいます。だからこそ、距離の置き方を考え、使いわけながら作曲しました。


●「ピントをあわせる」ことで『亜人』でしかありえない音楽を作曲

――およそ70曲の音楽を作るなかで、どのシーンの曲を作っているときが一番悩みましたか?

菅野さん:「ピントをあわせる」という言い方をするんですけど、作曲の前に自分が思い描いているイメージと『亜人』という作品自体から想像されうるイメージがマッチするように、ピントをあわせる作業をします。ピントがあわないまま作りはじめると、お門違いのところにたどりついちゃうんですよ。ほんのちょっとピントがあっていない写真とピントがしっかりあっている写真、わずかな差でも出来上がりは全然違いますよね? 音楽もそうで、ほんのちょっとずれているだけで全然違うものになってしまう。えらい人が「微差は大差」って言っていましたけど、それは真理だなと。つまり、「『亜人』の音楽はここだ!」という明確なイメージが自分のなかでできないと無理だなと思いました。だから、ピントをぴったりあわせるためには時間がかかりますし、悩むことも当然ありました。また、例えば「ホラー映画の音楽を作ります」となったときに、過去のホラー映画を知らないと思いがけず似てしまうかもしれないですから、ある程度過去作品を見ますし、そういう準備もアイデアも必要です。そういったことを踏まえて、自分が『亜人』に対して何ができるか、いろいろ考えてどの音楽も作っていきました。

――ピントのあった瞬間というのはどういったときだったんですか?

菅野さん:四国に「ベネッセミュージアム」という、島まるまる現代アート美術館みたいな場所があって、そこに行ったときです。自分の心臓の音を収集したと言いましたけど、じつはミュージアムに世界中の人間の心臓の音を収集するという作家さんがいるんです。そのアートを見たときに、「これだ!」って自分のなかで『亜人』とピントがあったんです。そこで早速、聴診器を買って、自分の心臓の音をサンプリングして、他にも自分のなかから発する声も採取しました。それによって『亜人』のなかにある“人間らしい”部分のイメージを膨らませて、音楽を作りました。

――ベネッセミュージアムへは『亜人』のために?

菅野さん:違います、と言ったらアレですが(苦笑)、僕は音楽だけはなくアート活動もしていまして、自分のアイデア収集のために行ったんです。そのとき、たまたま『亜人』の音楽をどうしようかと考えていたら、偶然にもピッタリあうものと出会いまして。先ほどホラー映画の話をしましたが、ホラー映画の音楽を担当するから今から見ようと見はじめても遅いんですよね。それまで自分が見た過去作品のなかで自分なりのフィルターを通して、発酵され抽出されてくる音楽というものがピントをあわせるうえではものすごく大事で。5年前に見た映画でも、当時印象に残っていた場面を今見ると全然違った印象として見えることもあるでしょう? それは5年間、いろいろな経験をしてきたことと混ざりあい、自分のフィルターが変化するからです。それによって表に出てくるものがきちんと自分の個性になり、似たような曲にならずに完成させることができる。つまり、『亜人』のために『亜人』の取材をするのではなく、いつか来る次の『亜人』のために取材をして、情報を更新して、ある程度、準備ができている状態に持っていっているんです。そのために、たくさんの作品を見たり本を読んだりアートを見たりして更新していきたくて。趣味で更新して、準備している感じです。

――ありがとうございました。それでは最後にメッセージをお願いいたします。

菅野さん:『亜人』は劇場版もテレビシリーズもまだ途中ですので楽しみにしていてほしいですし、音楽も劇場用にミックスしたものとテレビシリーズ用にミックスしたものとちゃんと変えていますので、それぞれを聞いてみてほしいです。特に劇場だと僕がこだわったところが大きな音でしっかりと聞けます。ぜひとも劇場版もテレビ版も両方見て、楽しんでいただけたらなと思います。


劇場版アニメ第3部『亜人 -衝戟-』は2016年9月23日(金)に公開予定
テレビシリーズ『亜人』第2クールは2016年10月から放送開始

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