主張
15年版「防衛白書」
国民の「理解」得るのは無理だ
防衛省が2015年版「防衛白書」をまとめました。中谷元・防衛相は冒頭に一文を寄せ、政府が「平和安全法制」(戦争法案)など「重要かつ広範な防衛政策の見直し」を進めていることに触れ、今年の「白書」は「例年にも増して重要」であり、一人でも多くの人に読んでもらいたいとしています。「わが国の防衛には、国民の皆様のご理解とご支援が不可欠」というのが理由ですが、中身を読めば、戦争法案などに対する国民の疑問や批判に誠実に応え、「理解」を得ようとする姿勢はひとかけらもないことが明らかです。
透ける戦争法案の狙い
戦争法案に反対する国民の声が大きく広がる中でまとめられた今年の「白書」は、国会審議のさなかで成立もしていない同法案の内容を図表まで使って詳しく記述しました。しかし、多くの国民がこの法案に抱く疑問には一切まともに答えていません。
戦争法案は、自衛隊創設以来の政府の憲法解釈を百八十度転換し、集団的自衛権の行使を認めました。日本がどこからも攻撃を受けていないのに、海外で武力行使に乗り出すことを可能にするものです。
政府が憲法解釈変更の理由として唯一挙げているのは「わが国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容」したということです。「安保環境の根本的変容」によって「他国に対する武力攻撃であったとしても日本の存立を脅かすことが現実に起こり得る」というのです。
「白書」は第I部で「わが国を取り巻く安全保障環境」について詳述しています。しかし、他国への武力攻撃が日本の存立を脅かす現実の危険が一体どこにあるのか、具体的な説明は全くありません。
むしろ「白書」が強調しているのは、国際社会の安全保障上の課題に対し「一国のみでの対応はますます困難」であり、「米国がアジア太平洋地域への関与およびプレゼンスの維持・強化を進めている現状を踏まえると、日米同盟の強化は、わが国の安全の確保にとってこれまで以上に重要」だという認識です。戦争法案の狙いが文字通り、米国との戦争協力の強化にあることが透けて見えています。
「白書」は「憲法のもと、専守防衛をわが国の防衛の基本的な方針」にしており、「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使」すると述べていますが、集団的自衛権の行使を認めた戦争法案との矛盾について口をつぐんでいるのも欺瞞(ぎまん)以外の何物でもありません。
「白書」が、沖縄の米軍普天間基地(宜野湾市)に代わる名護市辺野古への新基地建設問題をめぐり、昨年11月の知事選で翁長雄志知事が当選し、県が新基地反対の立場にあることを一切記述していないことも、極めて異常です。
沖縄県民の思いを無視
昨年の「白書」は、新基地建設を容認した仲井真弘多知事(当時)からの要望を「沖縄県民全体の思いとしてしっかり受け止め」るなどと強調していました。ところが、今回は、翁長知事誕生などに示された「新基地ノー」という「県民全体の思い」には全く耳を傾けようとしない姿勢があらわです。
政府に都合の悪いことは隠し、都合のいいことだけを記述する政治宣伝では、国民の「理解」や「支持」を得るどころか逆に、批判や反発を一層強めるだけです。