法制審に法務省案 可視化は3%
法相の諮問会議として捜査方法などの見直しを議論している法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」が4月30日に開かれ、事務局を務める法務省が審議会最終答申のたたき台になる試案を提示しました。
試案は、「通信傍受の合理化・効率化」をはかるとして、現行では薬物、銃器など四つの犯罪に限定されている通信傍受の対象を14犯罪に大幅拡大することを明記。詐欺や出資法違反など10犯罪を新たに加え、電話や電子メールを傍受する盗聴的手法を捜査全般に持ち込もうとしています。
現行の通信傍受法が義務付けている、傍受時の通信事業者の立ち会いについても、試案は「新たな傍受の実施」という項目を設け、立ち会いなしでの通信傍受ができる方策を提示しています。
一方、試案は法制審議会の主な検討事項であった取り調べの可視化について、裁判員裁判対象事件は逮捕から起訴までの全過程を録画するよう義務付けました。
しかし、裁判員裁判対象事件は、殺人、傷害致死、放火などで、起訴された事件の約3%程度にすぎず、事実上、ほとんどの事件が可視化されないことになります。
事務局試案にたいして、一部委員から通信傍受の対象範囲を拡大したことや可視化の範囲が不十分なことに異論がでたため、結論は6月以降に開かれる部会に先送りされました。
解説―共謀罪新設と一体
法制審議会の特別部会は、2010年9月に発覚した大阪地検特捜部の証拠改ざん事件を機に、取り調べや供述調書に過度に頼り過ぎない捜査や公判のあり方を見直す目的で、11年6月に設置されました。
しかし、事務局を務める法務省が今回示した試案で明らかなように、最も推進すべき取り調べの可視化は、範囲を極めて限定しています。見直しの発端となった特捜部の扱う事件などは含まれないことになり、なんのための議論だったかが問われます。
その一方で、強引にすすめようとしているのが通信傍受の対象犯罪の大幅拡大です。1999年に通信傍受法が制定されたさい、「一般市民のプライバシーを侵す危険のある盗聴法」だと厳しい批判がまきおこりました。そのため政府は、対象犯罪を四つに限定し、通信事業者の立ち会いを条件とせざるを得ませんでした。こうした制約をほぼ全面的になくそうとしていることは、きわめて危険です。
この盗聴の拡大は、安倍政権が狙っている共謀罪の新設と一体の動きです。
共謀罪は、実際の犯罪行為がなくても犯罪を行うことを複数で話し合い「合意」しただけで処罰するという法律。共謀の証拠をつかむために、日常的な会話を盗聴で監視するのです。
秘密保護法に引き続き、国民弾圧法制の強化につながる動きとして、通信傍受拡大は世論の厳しい批判を免れません。 (森近茂樹)