「海外で戦争する国」をめざす安倍内閣が、秘密保護法に続いて「共謀罪」の新設を狙っています。自民党の高市早苗政調会長が「できるだけ早く」(12日)といえば、谷垣禎一法相も「重要な課題だ」(13日)と呼応するなど、法案提出に前のめりです。暴走の狙いと危険とは―。
第1次政権時から執着
「共謀罪」は、第1次安倍政権のときの2006年をはじめ、03年以来3度にわたって「組織犯罪処罰法改定案」として狙われたことがあります。当時、安倍首相はわざわざ法相と外務次官を官邸に呼び、「日本が組織犯罪に対応する役割を果たす上で大事だ。今国会で成立を図るように」と指示する(07年1月)など、制定に執念を燃やしていましたが、審議すらできませんでした。
「共謀罪」新設は秘密保護法と同様、安倍首相の“怨念(おんねん)”がこもった国民弾圧法制づくりです。
国民の内心も処罰対象
「共謀罪」の最大の問題は、犯罪の実行や未遂など“行為”がなくても、2人以上の人が犯罪について話し合っただけで処罰されることです。具体的行為がないのに話し合っただけで処罰されるのは、刑法の大原則を大きくゆがめるもの。国民の「内心」まで処罰対象とすることにつながります。
たとえば、政治や社会への不満から「犯罪行為」に該当することを話し合えば、本気でなくても処罰されかねません。処罰範囲が無限定に拡大される恐れがあります。
市民団体・労組の会議も
その上、「改定案」の対象団体の定義も「組織的な犯罪集団」などとあいまいです。政党や労働組合、非政府民間組織(NGO)などの内部の打ち合わせが「共謀」行為として処罰されることも否定できません。
捜査当局の恣意(しい)的な強制捜査や政治的思想弾圧にも利用されかねません。
しかも、「共謀罪」の対象は、死刑や無期懲役、懲役10年以上の重罪だけではなく、長期4年以上の犯罪すべてで、その数は600以上にのぼります。秘密保護法に盛り込まれた「共謀罪」が「特定秘密」の漏えいや取得に関する謀議に限定されているのとも違います。
盗聴・監視捜査が横行
「共謀」を特定するには、日常的な会話やメールが対象となります。そのため、盗聴やメール監視、監視カメラなど人権やプライバシーの侵害を拡大する捜査が横行する危険があります。
現に「共謀罪」とセットで通信傍受法(盗聴法)改定が検討されているといわれます。
国際条約上も不要
法務省などは、国際組織犯罪防止条約に加入するために「『組織的な犯罪の共謀罪』を新設する必要がある」(同省HP、共謀罪に関するQ&A)としています。谷垣氏や高市氏も同条約を「共謀罪」検討の口実にしています。
国際組織犯罪防止条約とは、テロや資金洗浄、麻薬密輸などの国際的な重大犯罪を防止する国際協力を促進することが目的の条約です。しかし、条約加入には「共謀罪」が必要というのは、政府のゆがんだ解釈です。
国連が同条約締約国に示した国内法整備のための「立法ガイド」では、「共謀または犯罪結社に関する法的概念を有しない国においても、これらの概念を強制することなく、組織犯罪集団に対する実効的な措置を可能とする」と、「共謀罪」を新設することを強制しないと明記しています。
日本政府自身、条約の審議過程で提出した意見書で「すべての重大な犯罪について、共謀罪や参加罪を導入することは日本の法原則になじまない」としていました。
日本共産党は国会で「共謀罪」新設に反対を貫き、その危険な中身を明らかにするとともに、広範な団体、個人と連帯して「共謀罪」廃案の先頭に立ってきました。
国家安全保障会議(日本版NSC)設置や秘密保護法の強行につづき「海外で戦争ができる国」づくりのための国民弾圧の法整備をすすめる―戦前回帰を志向する安倍内閣の危険な暴走に「ストップ」の声をあげるときです。
“五輪支持”かさに強行は許されない
加藤健次弁護士(自由法曹団常任幹事)の話 「共謀罪」法案が廃案となってきたのには、それなりの理由があります。秘密保護法でも監視社会づくりやプライバシー侵害が大問題になりましたが、「謀議」しただけで犯罪になる「共謀罪」はもっと露骨で、普段から人々が何をやり、何を考えているかという内心まで調査されます。
「組織犯罪」が対象だといいますが、実際にはかなり広範な人々が対象になります。それは、警察がイスラム系の人々の生活を監視していたことからも明らかです。秘密保護法へのあれだけの大反対を顧みず、逆に開き直っているのではないか。
2020年五輪の治安対策が「共謀罪」新設の口実になっていますが、犯罪行為を罰する刑法原則を壊し、内心の自由も侵す「共謀罪」の根本的問題点は何ら変わっていません。五輪招致への多数の支持をかさに着て強行するのは論外です。