福島第1原発 元作業員が本紙に証言
放射能汚染の拡大を制御できない非常事態にある東京電力福島第1原子力発電所事故。その原発で汚染水の貯蔵タンクの組み立て、補修にかかわった元作業員が本紙の取材に応じ、東電、元請けなどによるずさんで無責任な「収束・廃炉」作業の生々しい実態を証言しました。(山本眞直)
男性(40代)は沖縄県出身。2012年7月から12月まで福島第1原発でタンク組み立て作業につきました。
あっせんしたのは沖縄県内の建設会社。実態は工事現場に作業員を送る「人夫出し」。東電の3次下請けで、元請けはゼネコンの大成建設です。
男性の作業証によれば作業件名は「1F(注=福島第1原発のこと)1~4号機Eエリア鋼製円形縦型タンク設置工事」。酷暑の夏は、放射線防護服に目の前しか見えない全面マスクの装備で、焼け付く鉄板相手に、さび止め塗り、ボルト締め作業でした。
あるとき現場の班長から指示されました。「タンクのふたを閉めてこい」。高い線量区域での作業で義務付けられている黄色の雨がっぱを防護服の上から着用させられました。高線量汚染を警告する黄色いテープをまたぎながら高さ10メートルを超えるタンクに向かう足が小刻みに震えました。
タンク上で男性は目を疑いました。直径約30センチほどの開口部がガムテープでふさがれていました。「工期優先の結果ですよ。本来は鉄のふたでふさぐところを材料が間に合わないまま汚染水をいれ、その場しのぎの対応で放置されていた」
カッターナイフではがすと50センチ下に見えたのは、ギラギラと鈍く光る汚染水でした。
作業はEエリアに限りませんでした。東電が9月4日に明らかにした毎時2200ミリシーベルトの高い放射線量を検出した「H3エリア」タンク群でも組み立てをしました。
昨年12月、タンク内で底板のボルト部分の気密性、防水のための隙間を目地材などで充塡(じゅうてん)するコーキング作業をしたときです。降り出した雪で充塡材は密着せず大半が流されました。男性は「汚染水漏れにつながった一因ではないか」と唇をかみました。
基礎「手抜き」 ヒビ割れも
タンクの組み立て作業は「ずさんの連続だった」。昨年7月から半年間、東電福島第1原発で汚染水タンクの組み立て作業についた男性の実感です。
専門的説明なし
その場での簡単な指示だけで、取り扱い上の専門的な説明などはありませんでした。タンクの側板のつなぎやボルト締めで行われるコーキング作業があります。
この作業は、側板のつなぎめ、ボルトのさび落とし、水分や脂の脱脂を徹底しないと、ピンホールとよばれる気泡などができ、水圧で充塡材が押し出され、汚染水漏れなどにつながる、と言います。「現場ではこれが徹底されていない。水取りを丁寧にやっていたら班長が『そこはもう終わっているはず、まだやっているのか』と信じられないことを口にしていた」
男性は自動車整備の資格をもち、板金加工でのコーキングの基礎的知識があるだけにずさんなタンク組み立て作業に強い危機感をもったと言います。
タンクの基礎コンクリート作業も「手抜き」と。満水時には1000トンの重圧がかかるタンクにもかかわらず、十分な鉄筋も打たず、表面の凸凹(でこぼこ)防止や水平を出すための大型定規も使わずコテだけの施工で、ヒビ割れや水たまりができているのを目撃しました。
タンクのボルト締めではレンチと呼ばれる工具が使われ、締めが完全に行われるとボルトの一部が折れることになっています。この折れた部分が、タンク底部と基礎コンクリートのすきま間に入り込み、水圧でタンク底部に傷をつけ、漏れの原因にもなっているのではと不安を隠しません。
福島第1原発の巨大貯蔵タンクの大半を納入しているタンクメーカーの管理職は本紙の取材にこう答えています。「うちは元請けのゼネコン(大成建設)に収めているが、現場での施工を検証できる立場にない」
男性と一緒に沖縄から18人が原発作業につきましたが、放射線被ばくと過酷な労働条件、日当や危険手当のピンはねで「やってらんねえ」と次々にやめていき、昨年12月まで残ったのは3人。しかし男性らに待っていたのは元請けの入札不調による突然の「雇い止め」でした。2次下請け会社からの「航空券は用意してある」との言葉に、「使い捨てにされた」。
ポスターの応援
沖縄に帰宅した日、家族が寝静まった居間のテーブルに置いてあった末娘(小3)の手紙に男性は胸が熱くなりました。「お父さん、6カ月間、がんばってくれてありがとう」
男性は、復旧・収束作業の前線拠点であるJビレッジから宿舎になっていた旅館まで、「(原発作業は)体力が勝負だ」とジョギング“通勤”を欠かしませんでした。その途中で目にした「危険手当をもらっていますか」「原発事故処理のコスト優先を許しません」と書き込まれたいわき市の日本共産党が張り出したポスターの連絡先をメモしていました。男性は笑顔で言いました。「ポスターにいつも励まされていた」
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