瀬戸内にあるネギの養殖場

漫画とイマジナリーライン

2014/03/15 18:53 投稿

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  • 葱汁あいのよもやま話
漫画にイマジナリーラインは必要か?
という議論をふと見かけましたので、
静画も動画もどちらもやっている私の意見を書いておきます。

■イマジナリーラインとは何か?

イマジナリーライン(映像線)とは、
落語の下手(しもて)上手(かみて)のようなものです。

 お客さんが蕎麦屋さんに話しかけるときは左を向く(上手から下手を見る)。
 蕎麦屋さんがお客さんに話しかけるときは右を向く(下手から上手を見る)。

この下手と上手を統一することで人物を明瞭に落語は描き分けています。
これがもし下手と上手をバラバラにしてしまったら、
落語では人物が不明瞭になってしまう可能性があります。

しかし、これがコントですと違ってきます。
コントにおいては、
舞台上で役者が立ち回り、
下手と上手が入れ替わることがあっても人物を間違えることはないでしょう。

実は、イマジナリーラインでもこれは似ています。
イマジナリーラインが適用されるのは、
とある限定されたシーンのカット割りだけです。
カメラワークや役者の芝居がイマジナリーラインを越えることは正しいとされています。
 ※参考文献:『映像の原則』富野由悠季

■コマ割りとカット割りの差異

さて、では漫画はどうでしょうか?

それを考える前に、
漫画のコマ割りと映画のカット割りはこれはおなじものなのでしょうか?

私は実感として違うと断言します。

漫画のコマ割りは、
ときに映画のカット割り的であり、
ときに映画のカメラワーク的でもります。
あくまで “的” です。

映画のカット割りとは、
Aの絵がパッと眼の前に現れたあとに、
Aの絵がパッと消えて、その場所にBの絵がパッと現れる。
という映像特有の現象を利用した演出法です。
視聴者は視線を固定したまま、様々な場面を目撃してゆきます。

漫画のコマ割りは全く違います。
漫画ではAの絵とBの絵が眼の前に同時に並べて現わされます。
視聴者は視線を動かし、様々な場面を目撃してゆきます。

また、カット割りは、
そのカットを見せる時間について24分の1秒の精度で調整します。
MMDなら30分の1秒ですね。

それに対してコマ割りは、すべて読者が決定します。

つまりほとんど別のものなのです。
漫画のコマ割りは、
映像的性質ではなく絵画的性質を持つと考えた方がまだいいくらいです。

ところで、なぜ映画においては、
とある限定されたシーンのカット割りでイマジナリーラインをこえてはならないか?
これは以下の二つの理由があるようです。

 1、誰と誰が対話してるのか分かりにくくなる。
 2、特別な意味を生じる。

■理由1の考察

映画の都合で絵が常に現れては消えて変化してゆく映画と、
任意の絵が半永久的に目前にある漫画では、
何か分かりにくさが発生したときのダメージが圧倒的に違います。

ここで、漫画では次の選択肢があるでしょう。

 A、微々たる分かりにくさを除外するためイマジナリーラインを導入する。
 B、図像としての面白さ、また、吹き出しの配置を考慮してイマジナリーラインは導入しない。

また、わかりにくさを抑えきって意味性を極めた日本映画も存在します。
小津安二郎の『東京物語』です。
この古い映画は、
イマジナリーラインを越えることが、
映像においても “絶対悪” でないことを証明しています。

■理由2の考察

これは私の解釈ですが、
小津安二郎の『東京物語』においては
イマジナリーラインを守る場面と越える場面が以下の様に使い分けられています。

映像線を守る場合‥ 親しみ 共感 理解
映像線を越える場合‥ よそよそしさ 反感 自己主張

以上は私の洞察でしかありませんが、
一般論としての映像の意味は「対話していない」だと理解していいと思います。
これが「わかりにくさ」の原因ですね。
これを逆手に利用すれば『東京物語』のような表現も可能なのだと思います。

■結論

さて、結論を書きますと、
漫画においてイマジナリーラインを導入することは、
ユニークで面白い方法ではあるが幅広く推奨すべきではないと私は考えます。
まず、映画のカット割りと漫画のコマ割りは、理論的・構造的にまったく別のものである。
故に、イマジナリーラインを越えることで発生する問題が漫画においては極めて矮小であり、
イマジナリーラインを守ることで得られる効果より、むしろ弊害が大きい。
とくに吹き出しの配置が制約されるのは最大の弊害です。
吹き出しの配置は “漫画の文体” とも云えますから、
イマジナリーラインなど無視して、
吹き出しを主体に画面を構成をしてもいいくらいです。

というわけで、葱汁あいの回答でした。

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