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第一次偶像戦争 【765】 [水瀬伊織]

2021/02/08 22:44 投稿

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 「どうしてとか言わないのね。」
もう誰も見えなくなった空を見つめたまま、麗華はそう言って。
 「終わらせたのは私じゃなくてアンタでしょ。
  私にどうこう言える権利はないわ。」
もし、私に決める権利があったのなら……
……それでも、麗華と同じ事をしたかもしれない。確証は持てないけど。
確証があると言えるのは、日高舞をここで終わらせたとしても
それは、私が欲しい勝ちと完全に合致はしていないという事。
そして、勝ちを選ばなかった麗華は、別のものを手に入れたと思ってるという事。
私の主観だから、私のアンタの間だけの価値。
でも、もし、逆の立場で、アンタが私に同じ思いを抱いてくれていたのなら……
……多分、私は嬉しいと思う。
アンタはどう思うか分からないけど
アンタにそう思われるのなら、悪い気はしないわ。
今の私には、日高舞を退場にした事実よりも、そちらの方が魅力がある。
 「伊織が居なければ負けてたわよ。
  あれだけ宣っておいて、何も出来ずにね。」
短くなった麗華の赤い髪が、水色の海風になびく。
 「その割に戦闘中に慌てたみたいな事なかったように思うけど。」
自分で言っておいて、正確じゃない。
慌てなかったではなく、怖がっていなかった。怒っていなかった。
また、私の知らないアンタだった。
 「撃てさえすれば勝てると分かってたからよ。」
 「勘?」
 「そう。完全な直感。
  でも、今までのプレインズウォーカーとしての歴史があっての勘ね。」
 「何となく分かるわ。」
ちらりと振り向く。そこに見える、丸く抉れた巨大な黒い柱と空。
【All Is Dust】
ある一定以上の【色】を持つ魔力が通う、全ての物質や、魔力が焼きついた空間。
それらの魔力の繋がりを断ち、通っていた【色】を持つ魔力を全て分解し
その過程で、魔力を通わせていた側の術者がコントロールをする時に使う
プログラムのような、基幹部にダメージを与え、壊すスペル
本来なら、魔力側への干渉は
召喚し使役しているクリーチャーや、エンチャントの様な
スペルを基本とした純化された【色】の濃い、間接的な魔力の繋がりを断つ事がメインで
【色】を問わず魔力やマナで駆動できるアーティファクトや
本体が直接関わる領域の様な
スペルに使用するまで純化されていない魔力にはそこまで効果は無い筈。
でも、麗華の放った【All Is Dust】は違っていた。
麗華本人を除く、ありとあらゆる魔力の繋がりを断ち
物質、空間、魔力を問わず、全てを分解し、無に帰していた。
……もしかしたらこちらが本当の【All Is Dust】なのかもしれないわね。
【色】を問わず、大量かつ高密度の魔力があれば
ある程度修練を積んだプレインズウォーカーなら問題無く使えるスペルという
私が知っている【All Is Dust】は
それがデフォルトではなく、調整されたバージョンなのかもしれない。
まぁ、スペルや魔法なんて、開発された後も
何人もの術士の手が入って、効率化や調整が行われてきたものだから
これが基本、これがデフォルトという概念自体がズレてるのよね。
あえて言うのであれば、私達が一番最初に魔法やスペルに触れた本。
Tome of Lost Knowledgeに書かれていたものがデフォルト。それだけ。
 「明日いきなり舞さん来たらどうする?」
明日。
いや、それでも遅いかもしれない。
意識が戻れば、魔力の回復関係無しにすぐにでも。
 「私は迎撃に動くわ。
  アンタはもう、日高舞や涼と争うレベルでしょうが
  それでも勝てるかどうかはまた別でしょ。
  少なくとも日高舞が退場するまでは
  アンタに生き残ってもらわなきゃ困るのよ。私は。」
アンタは困らないかもしれないけど。
 「たまたまスペルが当たっただけよ。
  伊織だって、日高舞が逃げることが出来ないのなら、圧殺出来る火力はあるでしょ。」
 「否定はしないわ。」
ただ、もし麗華と私の人格だけが入れ替わった状態で、同じ戦闘をしたのなら……。
……出来ない、勝てないとは思わない。でも、麗華の様に戦えるとも思えない。
……別にああいう風に戦いたい訳じゃないのよね。ぶっつけ本番とか勘弁してほしいし。
…………
……やっぱり、麗華を理解できなくなっていくのが怖いのよね。きっと。
じゃあ、前は分かってた?
…………
……親友と呼べるし、境遇も似ているから共感できる部分も強い。
でも前は、今の様にほぼ連日会える様な事は無かった。
連絡は取り合っていたけれども、想像で自分の都合のいい様に補填出来る隙間はあった。
それがこうやって会える時間が増えた事で、現実との差を感じてしまって
疎外感みたいなものになってる……。というのがまぁ、常識的な所よね。
本当はどうだろう?
もっと単純に、私達は変わってしまったの?
プレインズウォーカーにならなくても、麗華は恋をしてる。
女の子から女性になって、もしかしたら母になってという道を歩き始めてる。
私は……まだ少し遠い。
……いや、もう離れたかもしれないわね。
今だって、生殖機能のない機械の体で満足してる。
誰かを好きになったり、恋をしたり……それを失くした訳じゃない。
ただ、やっぱりそこに本来ある筈の性の色が、抜け落ちてきてる。
プレインズウォーカー、それもアーティファクト使いになって
私の思考がより合理性寄りになってきてるのかしら?
私は私、この体も、この魂も水瀬伊織。
でも、過去の水瀬伊織とは違う、水瀬伊織。
麗華……もし私達が初めて会うのが、今の水瀬伊織と、今の東豪寺麗華なら
私達は手を繋ぐことをしたと思う?手を繋ぐことは出来ると思う?
共に過ごした過去を持つ、私の機械の手を、今のアンタは握ってくれる?

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