ヘイヨーさんの人生

「夢見市の刑務所」(「夢見市物語」 ~第15話~)

2014/07/13 23:05 投稿

  • タグ:
  • ヘイヨーさん
  • 人生
  • 創作
  • 小説
  • 夢見市物語
  • 刑務所
  • 大石悠真

 夢見市の片隅に、1つの刑務所がある。
 その刑務所は、日本でも珍しく、海外の刑務所を参考に、かなりルールが緩めに作ってある。それは、夢見市としても刑務所としても、相当実験的な試みであった。ある種の“賭け”だといってもいいだろう。

 環境や待遇は非常によく、細かいコトをとやかく言われたりはしない。労働はあるのだが、「作業中に許可無く立ち歩いてはならない」などというルールはなく、好きな時にトイレに行ったりできる。
 刑務官による暴行や虐待なども一切無い。そんなコトをすれば、看守や所長の方が逆に塀の中へと送られてしまう。

 ただし、誰でも入れるというものでもない。条件としては、あまり重くない犯罪を何度も犯している者。その理由は、この刑務所が“再犯の防止”を最大の目的に作られていたからだ。
 初めて刑務所に入れられるのに、あまり環境がよくても“なんだ、こんな楽なものなのか。だったら、また犯罪を犯してしまえ”と舐められてしまう。かといって、殺人などの重い犯罪を何度も犯している者をこのような環境下に置くと、脱獄の手助けになってしまうかも知れない。そのような考えから、詐欺や窃盗など、そこまで重犯罪ではない罪を常習的に犯し、何度も刑務所に出入りしている者を中心に収容させていた。

 そういう意味では、ここは刑務所というよりも、一種の職業訓練所に近かった。数ヶ月から数年程度の宿泊型職業訓練所。



 ここに1人の受刑者がいる。あえて、名前は伏せておこう。
 彼はケチな泥棒で。人のいない家に忍び込んで現金や貴重品を盗み出したり、バイクで走って後ろから自転車を追い、追い抜きざまに自転車のカゴからカバンを引ったくったり。ま、その程度の軽めの犯罪を数え切れない程、繰り返していた。

 これで4度目の刑務所送りとなったのだが、今回はこれまでとは事情がかなり違っていた。2度目・3度目の刑務所では、環境は最悪。人間扱いしてはもらえなかった。初犯の時は、かなり緩めの刑務所だったのだが、それでも外の世界に比べれば苦しく、自由も制限されていた。今回は、その最初の刑務所と比べても、相当に自由で暮らしやすかった。「もう、一生、ここで暮らしてもいいのではないだろうか?」と思える程に。

 面会は自由。もちろん、会える時間はある程度決まってはいたが、“どのような関係でなければ駄目”とか“月に何度まで”などという規則はなかった。誰でも好きな回数、会いに来るコトができる。手紙を出すにしても、内容をチェックされたりはしない。病気や怪我をすれば、即座に対応してくれる。水虫や風邪の薬も、すぐに出してもらえる。
 自分の稼いだ金で、甘い物やスナック菓子などのオヤツを購入して、労働時間外に食べるコトもできた。本は読み放題だったし、マンガや映画のDVDなどの貸し出しも行われていた。テレビに関しても、基本的には好きな番組を見られるようになっている。
 ここではペットを飼うコトもできる。亀や金魚などはもちろんのことながら、犬や猫などの大きめの動物まで。海外の刑務所で、このような行為が受刑者に好影響を与えたという経験が生かされているらしい。

 外の世界へ出た時に困らないようにと、職業訓練のプログラムも充実している。望めば、大抵の資格は取得できる。
 出所の際には、それなりの金額が渡され、住む場所や職場なども紹介してもらえる。

 塀の外でも、このような好待遇で生活した経験など無かった。
「ここは天国なのだろうか?」とすら思えた。
 ただし、「次に犯罪を犯し、刑務所送りになれば、今度はまたあの地獄のような環境下に置かれる」と何度も聞かされていた。

 天国に来られるのは1度きり。だから、今度こそ立派に社会復帰を遂げなければ!彼は、そう心に誓っていた。彼自身、犯罪者として生きていくのには、もう疲れていた。誰も好き好んで、このような人生を歩んでいるわけではない。できるコトならば、他の人々と同じように、真っ当な陽の光の元で生きていきたい。そう望んでいたのだ。ただ、様々な要因や環境から、そうできなかっただけで。



 “日本の刑務所制度は、かなり優秀だな”と、夢見市の市長である大石悠真は考えた。
 けれども、そこにも欠点はある。たとえば、再犯率の高さ。1度、犯罪を犯し刑務所送りになってきた者の半数近くが、再び刑務所にやって来る。そのほとんどが、3度・4度…と同じコトを繰り返す。

 刑務所での生活が幸せ過ぎれば、また入りたくなってしまう。これは、当然。だから、刑務所の環境は厳しいに越したことはない。“もう、2度とこんな場所には戻って来たくない”と思わせるような場所にしなければ。そもそも、“そんな場所に入りたくない!”と思わせれば、犯罪者の数自体も減らすコトが可能だろう。
 ところが、そのような厳しい環境にも適応してしまう人間が存在する。そうして、1度その環境に適応した者は、何度も舞い戻ってきてしまうようになるのだ。さて、そんな時、どうするか?
 ここで発想を逆転させて、緩めの環境にしてみてはどうだろうか?厳しい環境で効果がないのならば、いっそのこと最高に優遇された環境にしてみては?

 夢見市の刑務所作りは、この発想から始まった。


コメント

コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。

いまブロマガで人気の記事