東方伊曽保物語

萃香の一計

2014/07/29 23:31 投稿

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暗い倉庫の端で、萃香は膝を抱えて縮こまっていた。地面を熱く焦がす外の日差しは扉の手前でその光を失っている。萃香の周りには空になったいくつかの瓶が淋しげに転がっている。神社の酒を格付けしてやろうと飲み比べをしていたら、霊夢に見つかって瓢箪(ひょうたん)まで奪われてしまったのだ。酒気(さけ)が抜けて頭が冴えていくにつれて、両手がぶるぶると酔いを求め、いける口がカラカラに乾いていく。その時、萃香の脳裏に神社の祭壇が浮かんだ。萃香は、酔っているときにも増してふらついた足取りで立ち上がり、蛇行しながら倉庫の出口を目指した。

   *

石畳に白い湯気が立ち上るほどの熱気にあって、霊夢は汗を流しながら甲斐甲斐しく境内の掃除を続けていた。時折チラリと空を見上げる。冷えきった青い妖精が都合よく現れないかと期待するためである。白い雲がゆったりと流れる広々とした青空を眺めていると、ふと霊夢は神社の中が気にかかった。手水舎の柱に箒を立て掛け、吸い寄せられるように階段を上った。
本殿は外の日光でうっすらと明るく、しんと静まり返った中に涼しげな空気が漂う。霊夢は入り口の脇に折り畳んであった手拭いを拾い上げ、額の汗をじんわりと拭き取る。祭壇を見ると、白い陶器のお猪口が空になっていた。この暑さで蒸発したのだろうか。これはいけないと思った霊夢は台所から徳利を持ってきて、両手を添えてゆっくりと傾けた。川の水のように透明な液体が、瓶の口から小さな容れ物へさらさらと注がれていく。そこそこに終えると霊夢は手際よく瓶を片付けて、すぐさま境内の掃除に戻った。

外を一通り掃き終えた霊夢は欄干や賽銭箱の拭き掃除に取り掛かった。だが、またしても祭壇の様子が不安に思えてきた。掃除を続けようとするも祭壇のことが風船のように頭を覆い尽くし、ついには雑巾を投げ出して本殿へ駆け込んだ。息を荒げながら祭壇を覗き込む。やはり、お猪口には一滴の酒も残っていない。操られるように日本酒を注ぐ。酒を満たすと不思議と心が落ち着いて、霊夢はやれやれと賽銭箱に戻ろうとした。その時、祭壇の方で木材の揺れる音がした。振り返ると、幹のような色の角を二本生やした者が、祭壇の裏から目を覗かせていた。両手をちょこんと出して、糸を手繰り寄せるように指先をくねらせている。霊夢は近くにあった陰陽玉を掴み、「さて」と呟きながら祭壇に詰め寄った。

  おわり


『イタチとネズミたち』より


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