東方伊曽保物語

雲山の減衰期

2014/06/13 23:20 投稿

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一輪は、天気が良いからと雲山を寺の庭先に吊り下げた。それから一輪は、相棒を干していたことを夜まで忘れてしまった。寝床に就こうとしたところで違和感に気づいた一輪は、夜空のような紺色の頭巾を被り直して縁側へ出た。日中の暑さとは打って変わって、外は思わず震えてしまうほどに冷え切っていた。向こうの物干し竿に、すっかり縮んでしまった葡萄色の雲がいた。
「ごめんなさい雲山。大丈夫? 動ける?」
雲山はぐったりした様子で一輪を見た。一輪は徐に雲山へ手を突っ込む。
「やっぱり、水分がすっかり逃げているわ。すぐに湖へ行きましょう」
一輪は雲山の手を引いて連れ出そうとするが、雲山は頑なに首を振ってその場を動こうとしない。
「え? こんな夜中に外出したら私が危険な目に遭うですって? 今さら何を言っているのよ」
暫時、二人は暗がりの庭で綱引きを繰り広げた。その時、一陣の風が二人の間に舞い上がった。一輪が「あ」と声を洩らした瞬間、しなしなの雲山は遥か彼方へ飛ばされてしまった。一輪は呆然と天頂を仰いだ。辺りの草むらから、ジジジと虫の声が響く。一輪は、寒さにくしゃみを一つ零した。


翌朝、一輪は精進料理をかき込むとすぐに寺を飛び出した。一直線に向かった先は霧に包まれた大きな湖で、そこには、瑞々しさを取り戻した桃色の雲が濛々と蜷局(とぐろ)を巻いていた。
「雲山! もう、自分ばっかり痩せ我慢しちゃいけないでしょう」
一度はムッとした顔を作ろうとした一輪だったが、溢れ出る安堵の笑みを抑えられず、堪らなくなって雲山に駆け寄った。
「ごめんね。私が頼りないばっかりに」
雲山は大らかな動作で首を横に振る。それを見た一輪は、頭上の日差しにも負けないほどに笑顔を弾けさせた。
「さ、せっかく遠くまで来たんだし、帰りは人里に寄りましょう。そうね、アイスキャンディーなんて貴方にピッタリでしょう?」
すると雲山はよほど嬉しいのか、もくもくと自身の体を発達させ始めた。一輪の頭上は分厚い雲山に覆われ、直後、どしゃぶりの雨が一輪に降りかかった。一輪は文句を言うが敢えて雨を避けることもせず、二人はそのまま、ゆったりとした足取りで湖を離れていった。

  おわり


『二匹のカエル』より


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