東方伊曽保物語

魔理沙の作法

2014/06/07 22:00 投稿

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魔理沙は前のめりのまま箒に跨り、一目散に横穴へ飛び込んだ。後方からは袖や裾を焦がした血の色の巫女が鬼の形相で迫ってくる。今頃、神社の瓦礫はどうなっているのだろう。ぼんやり立ち止まりそうになった魔理沙は慌てて首を振り、暗闇の奥を突き進んだ。暫くすると辺りにうっすらと明かりが灯り始め、ちらほらと朽ちた平屋も見当たるようになった。真下で鬼たちが振り仰ぐのを気に留める余裕も無く、魔理沙は地底の上空に一本線を描いた。集落を越えると、巨大な洋風の邸宅に突き当たった。魔理沙は考える暇も無く、そのままの勢いで扉を押し破った。正面に生える極太の柱が目についたので、すかさず身を隠す。間髪入れず、巫女の地響きが屋敷に近づいてきた。魔理沙は、帽子の裾を両手でぎゅっと握り締めた。外縁のあちこちから爆音が響き渡る。それでもじっと堪えていると、次第に、荒々しい音が遠ざかっていった。
「全く。遠慮のないやつだ」
大理石の床を踵で軽く弾く。乾いた音が響いたのち、吹き抜けのエントランスは水を打ったように静まり返った。じんわり心の解れた魔理沙は、徐に館内をうろつき始めた。巨人が往来できそうな広い廊下には、窓から青白い光が差し込んでいる。魔理沙は光沢のある茶色の扉に目をつけて、中へ入った。通路の規模とは裏腹に中はこじんまりとしていて、本で読んだことのある、いわゆる舶来の調度品が散りばめられていた。緩衝材の詰まった椅子が、中央の机を挟んで並べられている。ここは応接間だろうか。そう考えているうちに、魔理沙はいつの間にか硝子棚の正面に立っていた。桃色の花柄に縁取られた純白の皿や、硝子製の薔薇などが飾られている。魔理沙は引き戸を開けて、息をするような手つきで冷たい薔薇を手に取った。磨かれた表面はシャンデリアの光を一杯に蓄えていて、細部まで精巧に凹凸(おうとつ)が刻まれている。
「わっ!」
その時、耳をつんざくような叫びが部屋を貫き、魔理沙は前のめりになって硝子を落っことしそうになった。振り返ると、深い森のような色のリボンを頭に乗せる大柄の少女が、目を真ん丸にして魔理沙を見つめていた。二人は視線を合わせて石のように固まった。だが、やがて大柄の少女はバタバタと部屋の外へ駆け出していった。
「シーフ! シーフですさとり様!」
少女が発したありったけの喚声(かんせい)は、館の中では収まりきらないほどに響き渡った。すると、外から聞き慣れた轟音が急速に迫ってきた。
「なんて地獄耳だ」
部屋から顔を出した瞬間、無数の紅い御札が透明な窓にべたべたと貼り付いた。随分激しい衝撃なのだろう、窓枠がギシギシと悲鳴を上げている。魔理沙は居住まいを正し、手に持っていた硝子の薔薇をするりと衣嚢に仕舞った。直後、盛大な音を立てて硝子が破裂した。

  おわり


『シカとブドウの木』より


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