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とある居酒屋主任の「山形の酒は俺の嫁」

日本酒のアル添あれこれ 〜人はなぜアル添を嫌うのか?蔵はなぜアル添するのか?〜

2013/06/21 03:38 投稿

コメント:6

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  • 日本酒

 どうも、主任でございます。しばらく放置気味のブロマガで恐縮であります。
 ようやく決算業務に目処がついたので、すこしはうんちくを開陳できそうです。

 やはりアルコール添加についてはどうしても説明しなくてはならない部分があるので、ここについてお話ししましょう。なるべくやさしく簡単にいきたいのですが、また長くなりそうなのでお時間ある時に読んでみてくださいね。


三倍醸造?時代錯誤も良いところですよ

 仕事柄、様々なお客様の会話が耳に入ってきます。中でもお酒の内容となるとどうしても聞き耳を立ててしまう主任であります。よくある会話の内容は以下のようなものですね。

『吟醸酒はアル添してあるから飲まない。あれは量を3倍に増やす為に醸造アルコールを入れてるんだろ?そんでもって量が増えた分、味が薄まるから調味料を加えて訳のわからない味になってる。だから飲まない。』

 うーむ、いろいろと間違っているのですが、なるべく判りやすく、噛み砕いて解説していきましょう。

 まず上の会話の場合、『吟醸酒にアル添してある』部分は正解なのですが、後の内容は全部間違いです。

 ひとつ結論から申し上げます。量が3倍になる、いわゆる「三倍醸造酒」なる日本酒は、今現在は存在しません。そもそも法律がそんな事を許しません。それに吟醸酒には調味料は入っていません。

『ところで三倍醸造酒ってなに?』『なぜアル添なんかするんだろう?』といった、様々な疑問が湧いてくるかと思います。まずはアル添という行程が生まれた歴史から勉強してみましょう。

「アルコール添加」等でインターネット検索して、1~5番目までのページを参照してみてください。おしまい。

 いやあ、楽ちんラクチン…という訳にはいきませんね。サボらずにきちんと解説していきましょう。


江戸時代には存在していたアル添

 添加という意味では、江戸時代にはすでにお酒に焼酎を入れるという事は行われていたようです。目的としては腐敗(火落菌の繁殖)防止の意味が大きかったようですが、同時に味がスッキリするという結果もありました。

 ここでいう焼酎というのは、日本酒を搾った後の酒粕から造った焼酎、いわゆる粕取り焼酎だったようで、原材料は日本酒とまったく同じものです。

 この手法は柱焼酎と言われ、今でも柱焼酎仕上げの日本酒を目にする事ができます。

 さて、かつては腐敗防止として行われていた柱焼酎というアル添でしたが、今は加熱殺菌処理という技術が確立したため、腐敗防止という意味では柱焼酎という技法は必要が無くなりました。現在の柱焼酎酒は昔のお酒造りの再現といった意味合いが強いといえます。

 では、次は江戸時代から文明開化して大正に移っていきましょう。


大正時代〜米騒動と合成清酒〜

 大正ではシベリア出兵等に起因する米価の暴騰と米騒動から、日本酒の原料米の供給が不安定な時期があった事、また将来起こりうるであろう米不足に備える為にも、少ない原料米でお酒を造る方法が研究されていました。

 複数の方法があったようですが、タンパク分解液に糖類添加して発酵させて調味料を加えるものとか、アミノ酸をエタノールに溶かして電気分解するとか、よく判らん化学的ななにかがホンニャラモンニャラして出来たのが、合成清酒というものであります。

 化学的ななにかはここでは重要ではないのでホンニャラモンニャラとさせていただきますが、要は米不足により今までのような日本酒造りが困難な時代があったという事だけ覚えておいてください。ぶっちゃけ主任が化学的な何かが良く判らないだけです。

 適当で恐縮ですが、足早に昭和へ飛びますよ。


昭和時代(戦後)〜密造酒や純米酒よりやっぱり増醸酒〜

 太平洋戦争によりお米どころか物資全般がジリ貧であった日本でありました。もちろん日本酒を造る原料米も大量に確保できる訳でなし、高精米な吟醸酒など御法度。

 そこで戦中から認められていた増醸酒というものがありました。お酒と同等に薄めた醸造アルコールを加えて糖類や調味料を加えて味を整えたもので、今でいう普通酒とさほど変わりはありません。ま、これがいわゆる三倍増醸酒の誕生であります。

 そして敗戦。戦地からの帰還兵や満州等からの引揚げにより日本の人口は増加しました。
 ただでさえスッカラカンになのに人口増加、深刻な米不足であります。酒蔵を存続させる為には原料が少なくて済み、利幅のある増醸酒を造る他はありません。

 またこの頃は米不足の為に低精米で造った本当の日本酒(純米酒)の品質は良くなかったらしく、増醸酒の方が好まれていたという事情もありました。また粗悪な密造酒が横行していたこともあり、増醸酒に安心感もあったのかもしれません。

 いわゆる三倍増醸酒というものは戦中に製造が確立されましたが、普及したのは戦後といえます。

 いずれにせよ合成清酒も増醸酒も、米不足という日本酒造りにおいて致命的な事情に対応する為の苦肉の策ではありましたが、利潤は大きく市場でも求められていた為に、いくらかの変更点がありながらもおおむねそのまま現代に至っております。そして多くの蔵(メーカー)では、今も主力商品でもあります。

『アル添とはなにか?』を説明するはずが、なぜか脱線に脱線を重ね、三倍増醸ならぬ三倍脱線して日本酒の近代史となってしまいました。しかしながら、この近代史を踏まえないと現在のアル添を理解する事ができません。

 現在の吟醸酒や大吟醸はなぜアル添するのか?ここからが本題であります。

 長くなってごめんなさいね。


アル添が前提の吟醸造り〜守りたいこの吟醸香〜

 昭和5~6年頃に竪型精米機なるものが登場しました。お米屋さんや街中にちらほらある精米機のオバケみたいなもので、まさに工業機械ともいうべき巨大な精米機であります。

 私の動画の「酒蔵探訪 出羽桜酒造編」(宣伝)の冒頭にて、ゴウンゴウン唸って会話が全然聞き取れない、あの巨大な機械です。

 これにより、精米歩合50~60%という、今でいう吟醸酒や大吟醸に相当する精米が可能になった訳であります。

 ここで今までの酒造りにはない事象が発生しました。高精米の吟醸造りをした醪(もろみ:日本酒を搾る前の濁った状態)や搾った後の酒粕から、豊かな芳香が漂ってきたのです。

 いわゆる吟醸香というものですが、この香りが醪と酒粕からは漂ってくる。しかしなぜかお酒自体にはこの香りがない。

『なんとかしてこの素晴らしい香りをお酒に持ってこられないだろうか。』

 研究の結果、芳香成分がアルコールに対し溶解性がある事が判り、お酒を搾る前に醸造アルコールを添加する事で吟醸香を抽出する事ができました。

 吟醸香のする現代の吟醸酒の誕生であります。

 そう、吟醸酒や大吟醸のアル添とは、増量目的ではなく吟醸香を引き出す為の技法だったのです。

 同様に醪から漂う吟醸香を日本酒に還元する別の方法も模索されました。

 仕込みタンクから発散していく吟醸香をもったいないと考えた、とある醸造試験所の学者さん3人組は、上手い事やってこの吟醸香を逃さずに手に入れる事ができました。

 『上手い事ってなんぞや?』詳しい説明は割愛しますが、発散する吟醸香の気体を冷やす事で液体にする技術を『上手い事』やって発明しました。たぶんウイスキー等の単式蒸留装置的な方法だったと思います。

 こうした吟醸香エキスを一升瓶に数滴入れるだけで、お酒に吟醸香を添加する事が出来たのです。

「付け香」とか「やこまん(学者さん3人組『やまだ』『こもだ』『まの』の頭文字)」とかいわれる技法です。現代の吟醸酒の初期段階にもこの付け香は行われていたようです。また、この付け香を応用して「なんちゃって吟醸酒」なんかも作れちゃったりしました。

 しかしながらこのエキス、お酒の蓋をあけた瞬間は吟醸香が立ち上るのですが、数日で消えてしまう。匂いが不自然とか燗酒にすると気分悪い臭いなどと不評だったようで、国税庁も許可なく添加する事を禁止したほど。それでも「なんちゃって吟醸酒」は密かに作り続けられていたようであります。

 某グルメ漫画には『アル添した吟醸酒には不自然な香りがある』と、山岡さん雄山先生が言っている記述があったと思いますが、複数の指摘があるように、ここでいう不自然な香りとはこのエキスの事を指しているようです。

 私もこの点を確認したかったのですが、どうしてもこの某料理漫画の日本酒編の巻が見つからず、確認できずにいます。古本屋をあたるしかないようです。う~む、読んだ記憶はあるんですけれどね。

 脱線しましたが(脱線しかありませんが)、この吟醸香は高精米だけで発生する訳ではありません。新しく登場した酵母にも起因するのですが、ここでは割愛しまして、「吟醸酒のアル添は香りを引き出す技術の事なんだよ」という事を覚えてもらえればそれで結構です。


全国新酒鑑評会〜アル添技術を競う品評会〜

 日本酒の醸造技術を競う「全国新酒鑑評会」は、かつてはアル添した大吟醸を出品するものでした。これは新しい日本酒である吟醸酒の製法を競う品評会であり、とりわけ極限まで精米した大吟醸、つまり究極の吟醸酒をめざして全国の酒蔵はその手腕を振るったのでした。

 今では純米酒の部が新設されており、幅広い日本酒の可能性が評価されるようになってきています。


本醸造とは一体何だったのか?

 疑問がひとつ残ります。『それでは吟醸造りではない本醸造とは一体何なのか?』

 たしかに通常の本醸造酒は高精米ではないので吟醸香はありません。ま、あるお酒もあるのですが。

 まずは「本醸造」という名称、これは糖類や調味料を添加した普通酒や合成清酒に対する単語で、これらの添加や合成をしていない「本来の醸造をされた日本酒ですよ」といった意味合いだと思ってください。普通酒・合成清酒といった低価格帯のお酒の中では高価にはなりますが、本当の日本酒造りであるので品質は良いといえるでしょう。

 お醤油にも「本醸造」という単語が出てきますが、こちらも混合方式とか混合醸造というお醤油の製法に対して「本来の醸造をしてありますよ」という意味です。

 この「本来の醸造をされた日本酒」のうち、アルコール添加していないお酒を「純米酒」と呼んでいる訳であります。

 要は増醸酒である普通酒や合成清酒の他に、合成や混ぜ物のない本醸造酒がありました。  そしてこれら本来の醸造をされたお酒に吟醸酒も加えて、純米造りかどうかも分類して、ひとまとめに特定名称酒と呼称します。という事であります。

 ちなみに本醸造をはじめ吟醸酒、大吟醸の特定名称酒のアルコール添加量は原料米1tに対して120リットル(重量比約10%)までという決まりがあるので、最大でも1割程度しか量は増えません。

 普通酒でも現在は原料の米・米麹の重量を超えてはならない(最大で約2倍増醸)とあります。
「三倍醸造酒なる日本酒は、今現在は存在しない」と言ったのは。こうした所以であります。


 さて、舌足らずなところもあるでしょうが、ここら辺で結論を。

  1.  現代のアル添とは、吟醸香を引き出すための技法であり、杜氏の腕の見せ所である。
  2.  三倍増醸酒は今は無い。二倍醸造酒ならある。
  3.  現在の普通酒はクオリティーが高い(山形では)。糖類添加をしない普通酒もあり、味も本醸造にも引けを取らないものもある。

 こんな感じですかね。そして主任から一言。

「合成清酒も増醸酒も、その誕生の影には米不足という情勢の中、酒蔵の没落を避けたい。なんとかして酒造りを存続させたいという、先達の苦悩と情熱の狭間で生まれたという事を忘れないで下さい。吟醸酒のアル添も吟醸香をなんとか活かしたいという思いがあってこその技法です。アル添しているからと、どうか毛嫌いせずに一度は飲んでみて下さいね。」

 ていうか、なんで俺の嫁の悪口を言うんだよおォォォ!!


おしまい。

お酒は20歳になってから。







 柱焼酎という技法は、添加する焼酎の原料が酒粕(=米)であるために、アル添してあっても純米酒であるという意見があります。それはそれで一理あるなとは思うのですが、某酒造り漫画では、たしか夏子さんが『ひどい…、あたかも純米酒であるように偽るなんて…。』とか言っていたかと記憶しています。間違っていたらゴメンナサイ。
 それはさておき、山形でいいますと十四代の本丸という本醸造には「秘伝玉返し」なる文字がラベルにありますが、あれも柱焼酎の一種であるようですよ。





大吟醸

山形県内においても最高の大吟醸のひとつとして不動の位置にあるのが、小屋酒造の「絹」です。
アル添を感じさせない美しく透明感のある仕上がりは、地酒愛好家の間でも畏敬の念すら抱いている事でしょう。








吟醸酒

元旦仕込みという限定酒なのですが、米鶴酒造の「吟醸三十四号仕込み」を紹介しましょう。お米の旨味を残しつつ軽快で香りもある酒質は、吟醸酒とはかくあるべしと納得すること間違い無し。
三十四号とは、34番目に仕込んだお酒という意味なのですが、実は米鶴酒造の須貝智杜氏の名前にご注目。三十四=サトシ(智)という訳であります。
探せばまだどこかの酒屋さんには置いてあるかも。




本醸造

東の麓酒造の「東の麓あらばしり」
こちらも新酒時期の限定品で恐縮なのですが、酒蔵で初めて飲んだときの衝撃を今も忘れません。
私もその場で自宅用に一本買わせて頂きました。
マスターなんか2ケース発注する始末。
濃厚な旨味と搾りたてのピリピリとしたガス感がたまりません。








普通酒
竹の露の銘柄もズバリ「竹の露」。「普通酒はここまできたか!」と、私もマスターも舌を巻いた一本であります。近々お店にも仕入れる事でしょう。


コメント

主任 (著者)
No.4 (2013/06/22 02:04)
>>2
コメントありがとうございます。
米焼酎のアル添は、おそらく少数派かと思いますので、そのために法改正は難しいでしょうね。
ただ酒蔵としてはラベルに米焼酎を使用している旨を表記する事は可能ですので、アピールは酒蔵次第かと思います。
表記といえば、昨年より原材料の米は「国産米使用」という表記が義務づけられました。
とはいえ、どこの酒蔵も前のラベルは大量に刷ってあるので、「国産米使用」のシールを上から貼ったり、ハンコを押したりと大変なようですよ。
abc
No.5 (2016/10/13 21:15)
アル添のメリットしか書かれてないが、その逆もまた書いて欲しかった
主任 (著者)
No.6 (2016/10/17 01:19)
>>5
コメントありがとうござます。
アル添についてですが、結論から言いますと「直接的なデメリットというのは存在しない」というのが個人的な見解です。
ただ、アル添という技術を適切に運用できなかった場合、もしくは芳しくない結果が出てしまった場合に、いわゆるアル添臭が鼻につくといった印象を持つものと認識しております。

山形のある酒蔵では、大吟醸から普通種に至るまで、アル添(醪より香味を抽出する)時間を最長1時間を厳守としています。これ以上時間をかけるとアル添臭が目立ってくるそうです。
そして、アル添から絞りの時間が長引いてしまう原因として、予期せぬ事態(突然の電話や来訪者の対応、何らかの事故)が挙げられるそうです。
もう一つ、人員不... 全文表示
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