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前回の中井祐樹先生インタビューが大好評だった「総合格闘技が生まれた時代」シリーズ!(中井先生の回はコチラ
まだプロレスと格闘技が交じり合っていたグレーな時代。MMAがバーリトゥードと呼ばれていた時代。UFCやK-1、パンクラスが産声を上げた1993年という奇跡の時代。ペドロ・オタービオを武藤敬司がタコ殴りにしていたハチャメチャな時代……プロレスが格闘技に変換していくダイナミズムに満ち溢れたあの時代を振り返っていく今回は、元修斗ライト級王者で「奇人」の異名で知られる朝日昇さんです! テーマの「90年代」から木口宣昭先生の超人エピソードに脱線……!? 15000文字のロングインタビューです。


水垣に言ったんですよ。「でもな、オレは何十年前にボコボコやられてるんだよ。どんだけあのゴリラがヤバイかわかるだろ!?」って。


――今日は朝日さんにシューティング時代からの格闘技界の話を聞きたいんですよ。
朝日 ああ、YouTubeに上がってる合宿とかの話ですか?
――もちろん、その話もお願いします!(笑)。さっそくですけど、あの地獄の合宿ってどんな日程でやられたんですか?
朝日 たとえば4日間の日程なんですけど、ボクは他人にやらされることや合宿が大っ嫌いなんですよね。練習時間はとにかく長いんですけど、4日間だけ真面目にやったからって強くなるわけないですし、だからマイペースでやってました。 
――でも、そんな態度だと佐山先生に怒られそうですよね。あの映像でも竹刀を振り回してメチャクチャ怖いじゃないですか!
朝日 あの竹刀はケガしないように振ってますし、どこか真剣でない人間にやってますよ。だからオレ、佐山先生に怒られたこと一回もないですもん。佐山先生はわかってたんじゃないですか? オレは放っておいてもやることを。それにあの竹刀より野球部のケツバットの方が痛いですよ!
――え、そういう比較なんですか(笑)。
朝日 だって野球部のときはノックでボールを後ろに逸したらケツバットって言われたんだけど、間違えてホームラン打っちゃう先輩がいたんです。それでもケツバットを食らうわけだし、野球部の練習なんて水も飲ませず炎天下の中やるわけでしょ。シューティングの合宿は水が飲めましたからねっ!
――水が飲めるだけマシですか(笑)。
朝日 結局、佐山先生は気が緩んでる人間に対して指導しているわけですから問題はありませんし、あの映像だけで判断しちゃマズイですよ。それに佐山先生が本気で怒ったと感じたのは一回しか知らないんですよねえ。なんの現場か言えないですけど、初めて佐山先生が下関弁でキレてたんですよね。その声が奥の部屋から聞こえてきて「これはヤバイ……」と思って周囲の人間を帰しましたから。そのときは唯一違うように感じました。まあ、いまあの映像を見ると面白いのはわかりますけど(笑)。
――よく知らない人からすれば充分、激おこモードですね(笑)。
朝日 オレはさっきも言ったように4日だけ練習しても意味ないと思ってから「先生! 足が痛いので休みます」と言って見学とかしてましたから。佐山先生もコイツは気が狂ってる放っておこうと思われたんでしょうね。だから合宿に行くと3キロ近く太って帰ってくるんですよ!(笑)。
――地獄の合宿なのに!
朝日 やっぱりね、当時の連中はそれぞれ面白いですよ。だって◯◯なんてあの合宿帰りに五反田駅で降りて風俗に行くんです。あの竹刀を食らったあとに風俗なんてものが違いますよ!(笑)。
――ハハハハハハハハ! 朝日さんの人間力も尋常じゃないですよね。
朝日 そもそもオレの師匠は佐山聡と木口宣昭ですから次元が違いますよね。あの佐山先生が逃げるのが木口先生。「朝日、マズイよ。明日明後日、木口先生とマッハ(桜井マッハ速人)のギターリサイタルがあるんだよ!」って。そりゃ逃げたくなるよなあ(笑)。
――すっかりジャイアンリサイタル扱いですね(笑)。マッハさんもカラオケで三崎(和雄)さんに長渕剛の曲をリクエストしといて、途中でマイクを奪って歌うほどの自由ぶりですし。
朝日 木口先生はマッハのジムオープニングのときに「アメリカのテロ犠牲者に捧げる」とか言ってアメージングブレイスを弾いたんですけど、ジム開きとテロは関係ないだろって話ですからね。もう自由すぎますよ(笑)。そして、あの木口道場からは数多くのMMA選手が輩出されているじゃないですか。でも、木口先生はレスリングしか知らないんですよ。
――それなりにMMAも詳しくはないんですか?
朝日 木口先生はレスリング一筋です。でも、MMAを知らなくて もとにかく強くて、オレが現役時代、首相撲の練習をしてると「おーい、先生も混ぜてくれ!」って始まるんですけど、先生の力がとにかく強すぎて簡単に持ち上げられちゃうんですよ(笑)。
――いま先生は80歳、当時60代としても凄いですね!
朝日 あの人、なんだかんだでレスリングの全米選手権で優勝してますからね。レスリングという長い歴史がある競技のピラミッドの中でトップを取った人ですから、力とかケタ違いですよ。ボクがいままで肌を合わせてきたなかでいちばん力が強かったのは木口宣昭ですよ!
――最強は木口先生!
朝日 冗談抜きでっ! 桁違いですよ、あれ。もうペ・ン・チ!!
――木口宣昭はペンチ(笑)。
朝日 ちょっとでも掴まれたら絶対に外れない。よく「朝日、おまえとはマンツーマンでよくやったな!」って言うんですけど、「やった」んじゃなくて「ただやられていた」だけなんですよ(笑)。
――それって朝日さんが現役バリバリの頃ですよね?
朝日 そうですよ。いまは水垣(偉弥)がレスリングを教えてもらってるらしくて本人に聞いたら「まだ差し合いでは勝てません」って言ってましたから。
――UFCのランカーに負けない80歳って(笑)。
朝日 水垣に言ったんですよ。「でもな、オレは何十年前にボコボコやられてるんだよ。どんだけあのゴリラがヤバイかわかるだろ!?」って。
――そういえば某選手も「木口先生とのスパーは危険すぎる」って言ってましたね。試合直前に「もんでやる」と言われてスパーしたら肋骨にヒビを入れられたとか。
朝日 ああ、わかるわかる!!
――「木口先生あるある」ですか(笑)。
朝日 先生に脇をクラッチされると本当にヤバイから。メリメリメリメリって音がするから!
――まさにペンチですね(笑)。
朝日 まだね、関節を極められるほうがいいんですよ! ジャッカル大石(真丈)は「ボクは木口トレーニングは反対です! 身体が壊れますから」って言ってたんですけど、あれに耐えられるようになったらプロだと思うんですよね。だからかもしれないですけど、五味(隆典)も壊れにくかったじゃないですか。
――五味さんもけっこう頑丈ですよね。
朝日 いまの選手って「技術オタク」が多いじゃないですか。いや、それはそれで別にいいんですけど、あの木口宣昭に技がかかるかどうかやってみろ!って話で。あのオッサンは十字を知らんねん。でも、十字をかけても力で持ち上げてくるんだよ!(笑)。
――まるでアンドレ・ザ・ジャイアントと猪木さんの名シーンですね(笑)。
朝日 あの人に小手先の技術なんて絶対に通用しないから! だから先生とやることでたどり着いた結論は技術も大事なんだけど、体力を付けないとダメなんだってことなんですよ。力があれば技がかからない。木口先生は岩みたいなもんでしたからね。あれは動く岩ですよ!
――ペンチ、ゴリラ、岩(笑)。
朝日 先生の技はシンプルですもん。グワーと来るんですよ。そしてグッ、グッ、 グッ~と来てウワーってなるんですよ!! 
――擬音だけでも凄さが伝わってきます(笑)。イメージとしてはロシア伝説のサンビストとかに近いんですか?
朝日 あ、そうですね!サンボの達人の力が凄くて強くてボンボン投げちゃうみたいな感じで。
――いやあ、幻想が高まりますねぇ。
朝日 いやいや、幻想じゃなくて現実だからっ! 「オレは五味とノリ(山本KID徳郁)には負けない。なぜならあいつらの癖を知ってるから」とかまだ言ってるし、完全に王様ですから。もうね、昔の話もおかしいですから。「先生は昔、試合でライバルに腕を折られたけど、翌年の試合で折り返したぞ!」って。え、レスリングの話ですよね?(笑)。
――どんなリベンジなんですか(笑)。
朝日 あと試合中に「頭を使え!」と指示されたから頭突きをして反則負けになったとか「朝日、おまえはよく走るな。先生は走るのは嫌いだ。それならスクワット1万回やる!」とか、なんかおかしいんですよ。
――そんだけ強ければ先生のもとに人材が集まってくるわけですよね。
朝日 あれは10年以上前かな。ノリはまだ有名じゃなかったかもしれないけど、下北沢で木口道場のパーティみたいなイベントが開催されて、先生の大号令で木口道場出身の選手が皆集められたんです。そりゃあもう五味とかノリとか須藤元気とか、滅多に集まらない奴らが交通費としての簡単な謝礼でみんな集まりましたから。そして作文ですよ!
――作文?
朝日 「木口道場と私」というテーマの作文を提出しないといけないですよっ! 
――アハハハハハハハ! KID選手や五味選手が書いてる絵を想像しただけで最高ですね!
朝日 自由ですよ、自由。木口先生には逆らえませんから。ノリのジム開きのときも 途中でエレキギターが始まりましたから。誰も止められないんですよ! ただ、他人の悪口とか一切言わないですから。とにかく、次元を超越したギャグ連発して問答無用です。
――ほかに「ザ・昭和格闘家」な方って誰かいましたか?
朝日 佐山先生の関係で藤原(敏男)先生は知ってますけど、藤原先生も凄かったですね。普段は酒ばっか飲んでるじゃないですか。いつかすげえ酔っ払ってる状態で顔面ギリギリまで迫られて「オレはこの距離からでもハイキックを打てるからな!」って(笑)。
――さすが佐山先生いわく「路上の喧嘩、掣圏道のモデル」になった方ですね(笑)。
朝日 でも、あるときカッパを着てサンドバックを打ってるときがあったんですよ。オレは先生のキックボクシングの試合を見たことなかったんですけど、ジャブがダイナマイト並の破壊力で「ズドン!ズドン!」って音を出してるんですよ。僕は現役でしたけど「こら、ボコボコにされるわ」と内心思いました。普段は酒飲んでるのに「現役の頃はどんな強さ何者なんだろう?」って恐ろしくなっちゃってね。なぜサンドバックやってるかといえばVシネマの撮影があるからだったんですけど(笑)。 
――練習理由も最高というか(笑)。木口先生にしても昭和という時代が産んだところはあるんでしょうね。
朝日 一概には言えませんが、いまの選手は聞きわけが良すぎるかもしれませんね。いつかは大人になるんだから若いうちはぶっ飛んでいてほしいですけど、いまもいるのかな? 若い頃の五味が「先輩を練習でふんずけてる」「ジムから放り出した」とか、そういう噂が流れてくると嬉しくなっちゃってね(笑)。
――血が騒ぎますか(笑)。
朝日 やっぱつまらない常識など弾き飛ばすようなパワーある奴は面白くないですか? くだらない既成概念にこだわったり、スイーツとやらの話題をブログにチマチマ書いててもなんの魅力もないですよ。

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